バイオマーカー・トピックス(No21.2008年7月9日)
バイオマーカーの探索・発見・適応への関心が内外で急速に高まってきています。トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等のポストゲノミクス研究の急速な進歩と実用化、テーラーメイド医療の進展、癌などの各種疾病の早期発見・診断への関心の高まりなどを背景に、それに寄与できるバイオマーカーが注目されてきているからです。
「バイオマーカー・トピックス」は内外で発信される数多くのニュースや雑誌記事、論文などから適宜選んで、その要約やポイントを日本語で紹介するものです。
皆様の研究活動やビジネスに少しでも役立てばと願っています。
なお、翻訳はサイリックが担当しており、専門用語などは的確でない場合もあることをご容赦ください。また長文の場合はサイリックの判断で一部のみを紹介しています。正確なことは直接原典で確認してください。(多田 丞)
<目次>
ASCO(米国がん治学会)2008年総会での「バイオマーカー」「ツモールマーカー」関連の報告、演題一覧 2
ASCO(米国がん治学会) 2007年総会での「バイオマーカー」「ツモールマーカー」関連の報告、演題一覧 3
役立つ腫瘍マーカー*血液検査でがん早期発見*注目の胃ペプシノゲン法*食事制限なし. 6
子宮体がんの発症、慶大、遺伝子異常を解明――化合物過剰接着、たんぱく質減少.. 8
オンコミクス―がん検査、統計学を駆使(バイオこれで攻める). 8
厚労省・検討委員会、市販後医薬品の副作用を3段階で表示することを提言.. 9
心血管マルチバイオマーカー・ストラテジー(はじめに). 10
バイオマーカーを応用した運動療法の新しい展開-テーラーメイド時代に向けて.. 13
炎症性サイトカインの有用性-心血管イベント予測マーカー.. 13
血管内皮機能評価における血漿マーカー-CD144(VEカドヘリン)陽性血管内皮細胞由来微小粒子 15
妊娠関連血漿蛋白質A(PAPP-A)と胎盤増殖因子(PIGF)-急性冠症候群発症との関係.. 15
心不全の診断におけるN末端プロBNP(NT-proBNP)の臨床的有用性.. 16
タイトル:限局性前立腺癌におけるgradingとstaging上の問題点.. 16
(2008年6月)
ASCO(米国がん治学会)2008年総会での「バイオマーカー」「ツモールマーカー」関連の報告、演題一覧
2008年は、主なものとしては下記の26報である。
1. Application and Limitation of Biomarker Analysis - ASCO
2. ASCO-NCI-EORTC Offers Annual Meeting on Molecular Markers - ASCO
3. Biomarkers in Colorectal Cancer Management – ASCO
4. Biomarkers of Resistance and Response in Non-Small Cell Lung Cancer - ASCO
5. Breast Cancer Track – ASCO
6. Cancer and Thrombosis I: The Risk of Venous Thromboembolism (VTE) in Patients with Cancer - ASCO
7. Clinical Trials Track - ASCO
8. Cohort Identification for Cancer Prevention and Early Detection: Risk in the Balance - ASCO
9. Computational Aspects of Biomarker Analysis - ASCO
10. Decision Making in Cancer Drug Development: Role of Biomarkers in First-in-Human Studies - ASCO
11. Gastrointestinal Cancer - Colorectal Track - ASCO
12. Gastrointestinal Cancer - Noncolorectal Track - ASCO
13. HPV-positive oropharyngeal cancer more amenable to treatment - ASCO
14. Lung Cancer �” Metastatic - ASCO
15. Lung Cancer Track - ASCO
16. Melanoma/Skin Cancers Track - ASCO
17. Molecular Diagnostics in Breast Cancer: Prognosis and Prediction - ASCO
18. Monitoring Therapeutic Response: Imaging, Circulating Cells, and Other Biomarkers – ASCO
19. Novel Biomarkers for Melanoma Outcome - ASCO
20. Online Exclusive: ACRA Winner to Present Research on Molecular Markers - ASCO
21. Picking the Winners Through Biomarker Enrichment: Could This Be the End of Phase III Trials? - ASCO
22. Progress in Personalized Therapy: KRAS Status Predicts Response to First-line Cetuximab for Metas...
23. Therapy for HER2-expressing Breast Cancer: Efficacy and Toxicity - ASCO
24. Topoisomerase-1 may predict chemotherapy success in colorectal cancer - ASCO
25. Tumor Biology and Human Genetics - ASCO
26. Tumor Biology Track – ASCO
ASCO(米国がん治学会) 2007年総会での「バイオマーカー」「ツモールマーカー」関連の報告、演題一覧
2007年は、主なものとしては下記の90報である。2008年に比べ3倍以上の報告数であった。
(2008年6月11日)
役立つ腫瘍マーカー*血液検査でがん早期発見*注目の胃ペプシノゲン法*食事制限なし
(北海道新聞 2008年6月11日付)
人間ドックや健康診断で行われる血液検査。肝機能や痛風などの病気が分かるほか、腫瘍(しゅよう)マーカーにより、さまざまながんのスクリーニング(ふるい分け)にも役立っている。確定した診断は精密検査を受けなければならないが、他の検査と比べ簡便、安価で、体に負担をかけないのが特徴だ。(荻野貴生)
「血液は体の状態を示すメッセンジャー。全身を巡っているからこそ体の異常が分かる」と話すのは、北大病院血液内科の田中淳司・診療教授。その一つが主に血液検査でがんが分かる腫瘍マーカーと呼ばれる物質だ。
ここ20年ほどの間にがんによって生じる物質が次々に明らかになっている。大腸、肝臓、膵臓(すいぞう)、卵巣、前立腺などの各種がんは特異な腫瘍マーカーを出す。それを調べることでがん発見に役立つ。
最近、注目を集めているのが血液検査で胃粘膜の状態を診断するペプシノゲン法だ。胃がん発見に有効で、群馬県など道外自治体の一部は、無料で住民健診に取り入れている。
同法を採用する北海道健診センタークリニック(札幌市中央区)の斎藤和雄院長は「バリウム検査より発見率が高い上、食事制限などの必要がないため、当クリニックの受診者は9割がペプシノゲン検査を選ぶ」と話す。
ペプシノゲンは胃から分泌される物質で、胃がんの前症状とされる慢性萎縮(いしゅく)性胃炎で出方が変化する。正常値の範囲外になると、様々な病気が疑われる。
バリウム検査は映像でがんを判断するため、胃の場所や、初期ではがんを発見しづらいが、ペプシノゲンは数値で出るため早期がんにも対応する。
ただ、35歳未満のスキルス性胃がんは、胃が萎縮しないため発見しづらい。また、ポリープや胃潰瘍(かいよう)にも反応するので、進行がんはバリウム検査の方が発見しやすい面もある。
一方、CEAと呼ばれる物質は消化器系がん患者に多いことが分かっている。AFPも妊娠早期の胎児に見られる血清タンパクの一種で、健康な人の血液にはないが、肝臓がんになると増加するため目安に使われる。
田中診療教授は「異常な数値が出たからといって、すぐにがんとはならない。がんの早期では、陰性となることも多い。確定診断は専門医による精密検査を受ける必要がある」と指摘している。
*主な腫瘍マーカーの種類
腫瘍 腫瘍マーカー
食道 SCC
肺 CA-125、CEA、SLX
肝細胞 AFP、PIVKA-II
胆道 CA19-9、CEA
前立腺 PSA
神経芽細胞 NSE
甲状腺髄様 NSE
乳 CA-125、CA15-3、CEA
胃 CEA、STN
膵 CA-125、CA19-9、CEA、SLX、STN
大腸 CEA、STN
子宮頸部 βHCG、SCC、STN
子宮体部 βHCG、SCC
卵巣 βHCG、CA-125、STN、SLX
(2008年6月17日)
子宮体がんの発症、慶大、遺伝子異常を解明――化合物過剰接着、たんぱく質減少
(日本経済新聞 2008年6月17日)
慶応義塾大学の阪埜浩司専任講師らは、子宮体がんの発症に関連するとみられる遺伝子異常を突き止めた。がん関連遺伝子のうち五遺伝子が患者の細胞では一部変化しており、働きも変わっていた。早期診断や治療方針を決める手掛かりになる可能性もあるとみており、検査用のバイオマーカー(指標)として応用を目指す。
阪埜講師らは、検査で子宮体がんが疑われる二十五人の協力をえて、検査時の組織を使い、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)を調べた。
精密検査で十人が子宮体がんであることが判明。患者五人で損傷したDNAの修復や、細胞増殖などに関する五つの遺伝子で、DNAに炭素と水素の化合物である「メチル基」が過剰にくっついた状態であることが分かった。子宮体がんでない十五人にはこうした傾向はなかった。
化合物が過剰にくっつくことと遺伝子の働きが抑え込まれて、その遺伝子からつくられるはずのたんぱく質の量が減る。正常の場合よりも量が少なくなると、細胞が異常に増殖したり、がん化したりする方向に働くことが多いという。
五十代以降に多い子宮体がんは、子宮内膜の細胞を調べて「がんが疑われる(疑陽性)」とされた後に、広く組織を取って精密検査をする。ただ、疑陽性の約九割ががんではないという。精密検査は痛みを伴うことから敬遠する女性も多く、がんだった場合は進行してしまうことになる。
細胞を調べる検査の際、並行してDNAの異常メチル化を調べれば、患者への負担も減らせ、精密検査をしなくても、子宮体がんかどうか判別できるようになるという。
(2008年6月23日)
オンコミクス―がん検査、統計学を駆使(バイオこれで攻める)
(日経産業新聞 2008年6月23日)
オンコミクス(名古屋市、池野教之社長)は、がん関連の検査技術を開発する名古屋大学発ベンチャー。統計学の手法を使うことで、がん細胞の遺伝子や血液中のたんぱく質をもとにがんを早期に発見したり、再発リスクを判定したりする。既存の検査方法に比べ早期の発見が可能なことや、再発リスクなどがんの悪性度合いに応じた治療方針を立てられるとして、注目を集めている。
「ようやく膵臓(すいぞう)がんで血液検査の受託を始められるめどが立った」と池野社長は話す。今夏にも健診センターなどと組み、血液中のたんぱく質の質量をもとに膵臓がんを検査するサービスに乗り出す。
血液の中に含まれているたんぱく質のうち、膵臓がんの場合に表れる特徴的な十種類前後を質量分析器で調べ、がんの可能性を数値で示す。患者と健康な人を合わせた二百人ほどの血液を分析したデータをもとに、統計学に基づく独自の計算式を作成。十種類前後のたんぱく質の量を当てはめると、健康な人とがんの疑いがある人では数値が異なり、判定できる。
血液検査で膵臓がんの指標とされるのは「CA19―9」と呼ぶ腫瘍(しゅよう)マーカーだが、ほかのがんにも反応するなど精度に課題がある。新たに開発した手法は「画像診断でも発見が難しい小さながん病変にも反応するため、早期の発見と治療が可能になる」(池野社長)という。
オンコミクスは名古屋大学大学院医学系研究科の高橋隆教授の研究成果を実用化することを目的に、ジャスダック上場の医学生物学研究所などが出資して二〇〇五年に立ち上げた。
統計学の手法を用いたデータ解析が強みで、遺伝子の発現量やたんぱく質の質量をもとに、病状を探る検査技術の開発を進めている。
「一つのマーカーの数値だけではわからないものも、複数の小さな動きを組み合わせれば見えてくる」(池野社長)。目印となるマーカーがない病気でも、複数のたんぱく質や遺伝子の発現量などを組み合わせれば、病状や病変の傾向をとらえられることがある。
膵臓がんの検査開始に先立ち、肺腺がんの再発リスクを遺伝子の発現量から予測する検査も始めている。患者のがん病変からがん細胞を採取し、解析した上で手術後五年以内の再発リスクを数値で示すことができる。
再発リスクが高いと判定した場合には、検査の間隔を短くして早期発見に向けた対策を練ることが可能。逆にリスクが低いと判定されると、術後に抗がん剤投与の量や期間を抑えるなど、患者に負担が小さい治療法を選択することもできる。
オンコミクスは〇七年十一月期の売上高が千二百万円で、六千三百万円の経常赤字だった。営業部隊を持たない研究開発型企業だけに、積極的な提携戦略も必要になる。四月には肺腺がん再発予測検査で、臨床検査受託大手のファルコバイオシステムズと営業面で提携し、医療機関との太いパイプを確保した。
新たな研究開発を進めるためにも、検査の受託件数を増やして収入を安定させ、早期の黒字転換を目指している。
(若杉朋子)
(2008年7月5日)
厚労省・検討委員会、市販後医薬品の副作用を3段階で表示することを提言
(日本経済新聞 2008年7月5日付)
厚生労働省で医薬品の情報提供を強化する具体策を議論していた検討会は2008年7月4日、市販の医薬品について効き目や副作用の強い順に第一類から第三類までに分類して外箱にわかりやすく表示すべきだとする最終報告書をまとめた。店舗ではこの分類に沿って陳列するように提言、利用者が医薬品の副作用のリスクの大きさを一目見て把握できるようにする狙いがある。
厚労省では2009年度から、コンビニエンスストアなど薬局以外でも一定の条件のもとで風邪薬や鎮痛剤などを販売できるようにする方針。医薬品情報の提供強化はその前提となる。
厚生労働省は報告書を踏まえて関係省令を整え、来年度から改正薬事法を完全施行する方針だ。
<最近の研究文献から>
抗VEGF療法(消化器) (モノクローナル抗体)
著者:大津敦(国立がんセンター東病院内視鏡部)、布施望(国立がんセンター東病院外来治療部)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(2008年1月) 17-22頁
報告概要:
血管内皮成長因子とその受容体を標的とした様々な薬剤が開発されているが, 消化器癌に対して有用性が確立しているものはbevaclzumab(BV)のみである. BVと化学療法の併用は切除不能進行・再発大腸癌に対する一次治療, 二次治療において生存期間の延長が示された. 三次治療における有用性は示されていない. 術後補助化学療法における有用性は検証中である. 作用機序の異なる分子標的薬との併用も検証されている. 膵癌に対してgemoitabine(GEM)との併用では有用性が示されなかったが, GEM+erlotinibとの併用による試験が進行中である, 胃癌に対してはcapecitabine / fluorouracil+cisplatinとの併用において有用性が検証中である. 効果予測因子となるバイオマーカー, 至適投与量や一次治療以降にBVを継続すべきかが今後の課題である. 腫瘍の成長は血管新生に依存し, 血管新生は酸素, 栄養, 成長因子, ホルモンの供給, 遠隔部位への腫瘍の播種に重要な役割を果たす. 血管新生にかかわる分子生物学の進歩の結果, 血管新生を促す多数の成長因子受容体経路が認められ, そのなかでもっとも主要な経路のひとつが血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)ファミリーの蛋白と受容体である.
mTOR阻害剤 (低分子阻害剤)
著者:藤阪保仁(大阪医科大学附属病院呼吸器内科)、 田村友秀(国立がんセンター中央病院内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(2008年1月) 75-79頁
報告概要:
Pl3K-Akt経路やmTORは細胞周期の進行や抗アポトーシス作用により腫瘍細胞の増殖に深く関与している. これらを標的とする分子標的薬剤が開発され, mTOR阻害剤であるCCI-779やRAD001, AP23573の臨床試験が進行中である. また, CCI-779はFDAにより2007年5月に進行性腎細胞癌を適応症として承認され, その臨床応用が期待される. また, mTOR阻害剤の効果や毒性を予測するバイオマーカーを探索することも今後重要と考えられる. 腫瘍分子生物学の発展により分子標的薬を中心とする新規抗癌剤の開発が進められている. 従来の抗癌剤が非選択的に細胞障害作用を示すのに対して, 分子標的薬は癌細胞の増殖・分裂・血管新生・アポトーシス・転移などに関連する分子を標的とする薬剤である. 本稿では細胞増殖のコントロールにかかわるシグナル伝達経路のうちPI3K-Akt経路のmTORを標的とする新規抗癌剤に関して述べる. 「PI3K-Akt経路とmTOR」PI3K-Akt経路はシグナル伝達により細胞周期の進行や抗アポトーシスに作用することで細胞増殖に重要な役割を担うと同時に, mTOR(mammalian target of rapamycin)を介し蛋白質の合成・翻訳にかかわる
心血管マルチバイオマーカー・ストラテジー(はじめに)
著者名:清野精彦(日本医科大学千葉北総病院内科, 日本医科大学千葉北総病院循環器センター)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、309-310頁
報告概要:
循環器診療で重要な心血管イベントとして, (1)心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群, (2)心不全による入院・死亡, (3)急性大動脈解離や肺血栓・塞栓症などの血管イベントなどがあげられる. これらの心血管イベントの急性期診断やリスク層別化, 予後推測, 治療評価などに新しいバイオマーカーの活用が注目されている. 急性冠症候群の病態を分析し, 早期リスク層別化に活用される血中生化学マーカーは, 7つのスペクトラムに分類することができる. すなわち, (1)プラーク生成に関連する(plaque)マーカー, (2)プラークの不安定化に関連する(unstable plaque)マーカー, (3)プラークの破裂に関連する(plaque rupture)マーカー, (4)血栓形成に関連する(thrombosis)マーカー, (5)心筋虚血(ischemia)ストレスマーカー, (6)心筋傷害・壊死(necrosis)マーカー, (7)左室リモデリング(LV remodeling)マーカーなどである. これらは, 急性冠症候群の早期診断, リスク層別化のみならず, 病態の分析, 治療薬物の選択, 治療評価などにも有用である.
急性冠症候群に対するバイオマーカー・ストラテジー
著者名:村上大介, 清野精彦(日本医科大学千葉北総病院内科, 日本医科大学千葉北総病院循環器センター)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、313-317頁
報告概要:
近年, 急性冠症候群におけるバイオマーカー診断が進歩し, とくに心筋壊死マーカーであるトロポニンTは心筋特異性に優れ, 心筋傷害の早期検出, リスク層別化, 予後予測に有用であることが確立された. しかし, 従来のバイオマーカーのみでは, 急性冠症候群における超急性期の病態とリスクを評価するには限界があるのも事実である. そこで, 心筋壊死に陥る前段階である冠動脈プラーク不安定化, プラーク破裂を鋭敏に検出しうるバイオマーカーが注目され, 多くの研究が注目されるようになった. 異なった病態を検出・解析するマーカーを適切に組み合わせるマルチバイオマーカー・アプローチにより, より精緻な分析が期待される. 「急性冠症候群におけるマルチバイオマーカー・ストラテジー」急性冠症候群の病態は, 粥状動脈硬化病変のなかでもゲル状のコレステロールエステルに富んだ核を有し, 薄い線維性被膜に包まれた脆弱で不安定なプラークが, 血管内皮傷害や血管壁のストレス, 炎症機転などにより破裂して, これが引き金となり周囲に血栓が形成され, 急激に冠血管内腔の閉塞をきたすことにより致死的な心筋虚血・壊死を発症する.
心不全のバイオマーカー-心腎相関
著者名:蔦本尚慶, 堀江稔(滋賀医科大学呼吸循環器内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、318-325頁
報告概要:
人口の高齢化に伴い心不全患者が増加し, 確実な診断と評価が重要になっている. 最近, 腎機能障害が循環器疾患患者の予後と密接にかかわっていることが明らかになり, 心腎連関を念頭においた病態把握が重要と考えられる. 心不全診断-重症度-予後-治療効果を理解し評価するうえで, BNP, N末端-proBNP濃度は心機能のバイオマーカーとして有用である. 両者は心機能のみならず, 腎機能の影響を受けるため, 腎機能異常の有無によりcut-off値を考慮する必要がある. さらに, BNP, N-末端-proBNP濃度と合わせて心臓トロポニンTや高感度CRP濃度の測定も病態把握に有用であるが, これらのバイオマーカーは, あくまで病歴や問診, 聴診, 胸部X線, 心エコーなどの従来の心不全の診断法や評価法を補充するものであり, 併用することで病態の理解がさらに明らかになると考えられ, 適切な測定と評価は心不全診療に役立つことが期待される.
急性大動脈解離・大動脈瘤に対するバイオマーカー
著者名:圷宏一(国立循環器病センター心臓血管内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、326-328頁
報告概要:
急性大動脈解離の診断マーカーとしてミオシン重鎖, クレアチンキナーゼBB, 可溶性エラスチン断片などが提唱されてきたが, 実際に臨床の場で利用可能となっていない. かろうじて, D-dimerがスクリーニングに有用であり, 利用可能であるにすぎない. また, 大動脈瘤においても同様に臨床利用が可能な特異的診断マーカーはないが, matrix metalloproteinaseが診断に有用である可能性が報告されている. いずれの疾患についても特異度が高く迅速測定が可能な診断マーカーの早急な開発が望まれる. 急性大動脈解離(AAD)はきわめて致死率の高い疾患であり, 急性心筋梗塞(AMI)のそれをはるかにしのぐ. 致死率が高い原因はひとつはその病態そのものによると思われるが, 他の原因として疾患に対する認識の低さ, さらにAMIにおけるトロポニンTなどのような特異度が高く, かつ迅速測定が可能な生化学マーカーがないために診断が遅れることなどが原因として考えられる.
肺血栓塞栓症に対するバイオマーカー・ストラテジー
著者名:白土邦男(仁明会齋藤病院内科), 佐久間聖仁(女川町立病院内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、329-333頁
報告概要:
血栓塞栓症の重症度判定は, 事前に予後推定し, 治療選択を決定するうえで重要である. これまで心エコーが果たす役割が大きかったが, 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP), トロポニンなどのバイオマーカーは院内イベント発生の陰性適中率が高く, 予後良好な患者群を区別するのに有効であることが示されてきた. 一方, 陽性適中率は十分ではなく, 上昇するまでに発症後数時間かかることが臨床で使用する際の問題点である. 最近, 心筋梗塞の急性期診断に用いられる心筋型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)が肺血栓塞栓症の予後推定にBNP, トロポニンより優れていることが報告された. 肺血栓塞栓症ではD-ダイマーは通常, 除外診断に利用される. しかし, 肺血栓塞栓症患者での重症度判定や抗凝固療法中止後の再発リスクへの利用が試みられている. 肺血栓塞栓症の予後は診断時の状態によって異なり, 心肺停止症例での死亡率は52.4%, ショック例では15.6%, ショックのない右室負荷例では2.7%, ショックも右室負荷もない例では0.8%とされる1). また, 心エコー検査による右室負荷の有無が予後の指標として認められている.
動脈硬化に対するバイオマーカー・ストラテジー
著者名:吉田雅伸, 冨山博史, 山科章(東京医科大学第二内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、334-338頁
報告概要:
近年, 多数のあらたな血液生化学マーカーが開発されているが, いずれも単独では日常の臨床指標として限界がある. 今後, 血液生化学マーカーは, 複数の組合せや, 生理学的指標をはじめとする他の指標と組み合わせることで, 動脈硬化重症度評価, 動脈硬化性心血管疾患発症予測・予後指標とする方向へ展開していくと考えられる. わが国では一般的に, バイオマーカーは血液・尿生化学的指標を意味して使用されることが多い. しかし本来, バイオマーカーは生化学的指標のみならず, 生理学的指標(内皮機能, PWV, ABI, AIなど)や, 他の形態学的指標(超音波画像検査, CT, MRIなど)を含めた指標として定義される. 確立されたバイオマーカーの必要条件として再現性, 普遍性, 機序の説明が可能であること, 疾患特異性, 従来の危険因子に対する付加価値があげられる. 近年, 多数のあらたな血液生化学指標や生理学的指標が開発されているが, 表1はそうした条件を考慮したVasanのまとめを示した。
不整脈に対するマルチバイオマーカー・ストラテジー
著者名:小松隆, 中村元行(岩手医科大学内科学第二講座)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、339-344頁
報告概要:
近年, 不整脈疾患に関連したバイオマーカーの報告が多く散見され, 不整脈疾患の病態理解や患者予後に役立つ情報が得られている. その代表的なバイオマーカーにはC-reactive protein(CRP), interleukin-6(IL-6), tumor necrosis factor-α(TNF-α)などの炎症性マーカーや, atrial natrituretic peptide(ANP), brain natrituretic peptide(BNP)などの心筋負荷によるマーカーがあげられ, そのほか種々のマーカーに関する報告もみられる. とくに, 最近の傾向として上室性ならびに心室性頻脈性不整脈に関する検討が多く, 不整脈の再発予防効果や心血管予後とバイオマーカーの関連性を研究した報告が多く見受けられる. しかし, 前述したバイオマーカーの疾患特異性はいまだ十分とはいいがたく, 今後, 不整脈領域にも鋭敏かつ特異性の優れたマーカーが発見され, 本研究のさらなる発展がもたらされることに期待したい. 最近, 持続的な炎症や心房負荷が心房細動や心室頻拍の発症や憎悪に関連すると考えられている.
バイオマーカーを応用した運動療法の新しい展開-テーラーメイド時代に向けて
著者名:沖田孝一(北里大学大学院)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、345-350頁
報告概要:
運動療法の有効性は生理学的・疫学的および生化学的にさまざまな方面から研究され, 多くの効果が科学的根拠をもって証明されている. 運動能力の向上はもちろんであるが, 疾患の予防, 死亡率の低下などその効能はきわめて多岐に及ぶが, さて運動による効能とは何なのであろうか. 単純に考えると, 筋肉を一定以上の強度で動かす, 組織が多くの酸素を必要とするため血流が増加する, 血流増加のために血管内皮機能・血管拡張能力・心機能が向上する, また, 筋エネルギーを供給するため糖代謝・脂質代謝が活発になり, その代謝能力が向上する. さらに, 定期的な運動を長期的に続けることにより筋肉は質的に量的に変化する, ということになる. このような運動の効果と考えられる身体内部の変化のある側面を血液生化学的に反映しているのがバイオマーカーであろう. 本稿では運動療法と, その指標としてのバイオマーカーの応用について概説する.
新規血管炎症マーカー, pentraxin3
著者名:井上健司(順天堂大学医学部附属練馬病院循環器内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、353-358頁
報告概要:
急性心筋梗塞は約1,000人に2人の頻度で発生し, その死亡率は20~30%といわれている. その前段階である不安定狭心症はその約30%が急性心筋梗塞に移行するので, 不安定狭心症の場合も急性心筋梗塞と同様に慎重に対応する必要がある. しかし診断は, 医師の問診によることが多い. なぜならば, 不安定狭心症は典型的な心電図変化や有効な血液診断マーカーをもたないためである. 一方, 新規血管炎症性マーカー, pentraxin3(PTX3)は, CRPと同じ仲間でありながら動脈硬化巣に認める細胞で特異的に発現している, いわば血管CRPのようなものである. 著者らはヒト血漿PTX3測定系を開発し, PTX3は不安定狭心症の診断マーカーとして有効であると報告した. そしてその後の急性冠症候群症例の詳細な検討結果から, PTX3はおもに血栓内に浸潤した好中球によって増加することが推測されている. 動脈硬化症において炎症が主要な役割を担っているという事実は, 近年もはや疑いようのない事実となった
炎症性サイトカインの有用性-心血管イベント予測マーカー
著者名:高橋将文, 池田宇一(信州大学大学院医学系研究科循環器病態学分野)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、359-363頁
報告概要:
動脈硬化の形成からプラーク破綻に至る一連の過程に炎症反応が関与しており, この炎症反応を検出できれば心血管イベントの発症を予測できると考えられる. 実際, 炎症反応におけるもっとも鋭敏なマーカーのひとつであるC反応性蛋白(CRP)は, 心血管イベント予測マーカーとして有用性が示されている. CRPの産生は炎症性サイトカインのひとつであるIL-6により誘導され, 他の炎症性サイトカインも炎症反応に深く関与していることから, IL-6をはじめとする他の炎症性サイトカインの心血管イベント予測マーカーとしての有用性が検討されている. さらに重症心不全においても, 炎症性サイトカインのひとつである血中TNF-α濃度と重症度との相関が報告されている. 食生活やライフスタイルの欧米化, さらには高齢化などによって, わが国においても動脈硬化を基盤として発症する狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患, 閉塞性動脈硬化症, 脳梗塞は増加傾向にあり, これらの動脈硬化性疾患は循環器領域における死亡原因のおもなものとなっている.
炎症性ケモカインと循環器疾患
著者名:中込明裕(日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、364-369頁
報告概要:
ケモカインは単球, リンパ球などの体細胞から構成的あるいは誘導性に産生され, 白血球の血管外への走化性, 遊走や炎症を介在した生体防御反応に重要な役割を果たしている. 一方, ケモカインは, リンパ球の骨髄や胸腺における血球の分化に伴う移動, 成熟ナイーブリンパ球の再循環と二次リンパ組織へのホーミング, 樹状細胞の関与する免疫応答の開始などにも深く関与していることが判明した. 最近の研究では動脈硬化症, 心不全, 急性冠症候群の発症・進展にケモカインが深く関与している可能性が指摘されている. 今回, 自験例も含めて上記疾患にかかわるケモカインの関与について概述する. ケモカイン(chemokine)は8~14kDa程度の小分子であり, 白血球走化作用(chmotaxis), 細胞遊走作用を有する塩基性ヘパリン結合性蛋白の総称である(ただし2種の膜結合型分子も存在する). Chemokineの名称はchemotactic cytokineからつくられた造語で, 現在のところヒトでは45種にのぼるケモカイン(ケモカインスーパーファミリー)と18種の機能的(シグナルを伝達する)受容体(ケモカインレセプター)が同定されている.
Soluble LOX-1とその周辺
著者名:久米典昭(京都大学大学院医学研究科循環器内科学)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、370-374頁
報告概要:
冠動脈の粥状動脈硬化プラーク破綻と続発する血栓形成が急性冠症候群を発症させるが, 脂質コアの増大, プラーク内の炎症反応, 酸化ストレス, 血行力学的因子などがプラーク破綻の要因となる. 酸化LDLとその受容体LOX-1は, 脂質の蓄積と催炎症, 血管壁細胞死, マトリックメタロプロテアーゼ(MMPs)の産生などを誘導しプラーク破綻に導く. CD40-CD40リガンド(CD40L)は, 血管壁細胞でのMMPsの発現を誘導するなどプラーク破綻の因子であるとともに, 血小板にも発現され, その活性化因子でもある. 白血球から産生されるミエロペルオキシダーゼ(MPO)は酸化ストレスを惹起させ酸化LDLを生成させる. 急性冠症候群のバイオマーカーとして, プラーク破綻や不安定化を反映するsoluble LOX-1(sLOX-1), soluble CD40L(sCD40L), MPO, 高感度CRP, 酸化LDLなどの測定の有用性が示されている. 「急性冠症候群の発症における粥状動脈硬化プラーク破綻」血中LDLコレステロール値の上昇は,虚血性心疾患などを中心とした粥状動脈硬化を基盤とする疾患の主要な危険因子であることはよく知られている.
血管内皮機能評価における血漿マーカー-CD144(VEカドヘリン)陽性血管内皮細胞由来微小粒子
著者名:野崎俊光, 杉山正悟, 小川久雄(熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、375-379頁
報告概要:
近年の食生活の欧米化に伴い, 幼少時より欧米化のなかで育ってきた世代が増えるにつれ動脈硬化性疾患は増加していくと思われる. それを背景に動脈硬化性疾患は二次予防から一次予防へと, 病態の早期発見・早期治療の重要性が見直されてきた. アテローム性動脈硬化進行の第1段階は血管内皮細胞障害からはじまり, 最近の研究で血管内皮機能障害は動脈硬化性疾患の有用な予後指標になることが証明され, 血管内皮機能の重要性が認識されるようになった. 現在, 血管内皮機能評価はおもに上腕動脈のlow mediated dilatationで評価されるが, その専門性や煩雑さなどの理由で, 一部の大病院で採用されるにとどまっている. いくつかの可溶性マーカーの検討もなされており, 今回, 著者らは血管内皮細胞障害マーカーとして血中に存在するCD144(VEカドヘリン)陽性血管内皮細胞由来微小粒子を提唱し, その有用性と将来の展望についてまとめた.
プラーク不安定性におけるneopterinの役割
著者名:江原省一(大阪市立大学大学院医学研究科循環器病態内科学), 上田真喜子(大阪市立大学大学院医学研究科病理病態学)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、380-384頁
報告概要:
動脈硬化の発生・進展, およびプラークの不安定化に起因する心血管イベントの発症には“プラーク炎症"と“酸化ストレスの増大"が密接に関与していることが明らかになってきている. 近年, 心血管病に関連する多くのバイオマーカーが取り上げられているが, 不安定プラーク内の炎症細胞のkey playerであるマクロファージから分泌されるneopterinにも注目が集まってきている. 著者らは最近, ヒト冠動脈の不安定プラークにはneopterinが高度に局在し, またneopterin陽性マクロファージスコアは好中球数やTリンパ球数と正の相関を示すことをはじめて明らかにした. neopterinはマクロファージやTリンパ球の活性化のみならず, 酸化ストレス増大とも密接に関連することから, プラーク不安定性の進展や心血管イベントの発症におけるneopterinの関与が強く示唆される. 生活習慣病やメタボリックシンドロームの罹患患者数の増加を背景として, 動脈硬化の進展・不安定化に起因する心血管イベントの発症率が増加している.
妊娠関連血漿蛋白質A(PAPP-A)と胎盤増殖因子(PIGF)-急性冠症候群発症との関係
著者名:江田信一(ロシュ・ダイアグノスティックス(株)PD事業部CD学術部)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、385-388頁
報告概要:
妊娠関連血漿蛋白質A(PAPP-A)および胎盤増殖因子(PIGF)は, 炎症性の反応を介し動脈硬化病変におけるプラークの不安定化および破裂を引き起こし, 急性冠症候群(ACS)の発症に関与すると考えられている. PAPP-AはACS患者の不安定プラーク中に高頻度認められており, また, 血中のPAPP-Aの測定はACSの診断および予後予測に有用であることが示されている. 一方, 血中PIGF濃度もACS患者の短期および長期予後予測において従来のマーカーに比べ有用性が高いことが示されている. これら2つのマーカーは従来産婦人科領域を中心に検討され, その測定系も産婦人科領域をターゲットとして開発されたものであることが多い. ACSにおける評価にあたっては, 高感度測定の可能性およびPAPP-Aにおける抗原認識・検出可能性と留意すべき点があり, 今後の臨床検討にあたってはこれらの点を十分考慮したうえで測定を実施すべきである.
心不全の予後予測因子, 血中心筋トロポニン
著者名:佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器内科)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、389-393頁
報告概要:
トロポニンは心筋フィラメント上の蛋白であり, トロポニンI, T, Cで複合体を形成している. 心筋トロポニンTは約94%が心筋アクチンフィラメント上の構造蛋白であるが, 約6%は細胞質中の可溶性分画に含まれ, 心筋トロポニンIの可溶性分画は2.8%であると報告されている. トロポニンの流出機序は完全に細胞死を起こした心筋細胞からだけでなく, 障害され細胞膜透過性に異常をきたした心筋細胞からも漏出すると考えられている. 臨床において血中心筋トロポニン(cTn)測定のもっとも重要な使用方法は急性冠症候群の早期診断, リスク層別化であるが, その測定感度の高さから, 非虚血性の慢性心不全・急性心不全においても微小心筋傷害を検出できることが報告された. 慢性心不全, 非虚血性急性心不全においてcTnは独立した予後予測因子であり, かつ治療効果指標としての可能性も報告されつつある. さらに一般住民において, cTn測定により潜在的心疾患の早期検出の可能性も報告された.
心不全の診断におけるN末端プロBNP(NT-proBNP)の臨床的有用性
著者名:石井潤一(藤田保健衛生大学医学部臨床検査部)
雑誌名:「医学のあゆみ」224号(5)(2008年2月:土曜特集)、394-398頁
報告概要:
N末端プロBNP(NT-proBNP)はBNPより安定性が高く, 血清での測定が可能である. しかし, 半減期が長く, 腎排泄のため腎機能の影響を受けやすい. 両者の心機能・心不全の生化学指標としての有用性には若干の差異が推測されるが, 現時点ではほぼ同等と考えられている. NT-proBNPは, 心不全の診断, 予後評価および治療効果の判定に役立つ. 問診, 身体所見, 心電図, 胸部X線や心臓超音波検査などの従来の標準的臨床評価にNT-proBNPを合わせて用いることが, 心不全診療のレベル向上につながると考えられる. しかし, 年齢, 性別, 肥満や腎機能などの影響を考慮してNT-proBNP値を解釈する必要がある. 心筋細胞で合成されたプロB型ナトリウム利尿ペプチド(pro-BNP;108残基)は血中への分泌過程で, 非活性型のN末端プロBNP(N-terminal pro-BNP:NT-proBNP;76残基)と活性型のBNP(32残基)に分裂し, 1:1の等モル比で血中に逸脱する. 血中のNT-proBNPは生理活性をもたず, 特異的な受容体に結合することなく, 腎から排泄される.
タイトル:限局性前立腺癌におけるgradingとstaging上の問題点
著者:山本順啓, 頴川晋(東京慈恵会医科大学泌尿器科)
雑誌名:「泌尿器外科」第21号(2008年1月) 3-5頁
報告概要:
本邦においても血清前立腺特異抗原(以下PSAと略す)による早期診断法が導入され限局性前立腺癌の頻度も増加してきた. 一方, 限局癌に対する有効な治療法も多々開発され多岐にわたっている. 正確なgradingとstagingは, 適切な治療方針を決定していく上でますます重要性を増しているが, 現状では診断精度に限界があることも明らかである. 診断技術の一層の改良や信頼性の高いバイオマーカーなどの開発が期待される. 「はじめに」Gleason分類が考案された1960年代にはPSA検査やスクリーニングは行われていなかった. 当時の前立腺癌は86%の症例が進行性前立腺癌であった. さらに, 触知不能でTURにより診断されるものが6%, 限局性癌と診断される症例は8%程度という時代であった1). しかし, PSAによるスクリーニング法が導入され, 系統的な6箇所の生検により前立腺癌の検出率が格段に向上した. このため近年では, 限局性癌は64.5%, 局所浸潤癌は24.2%, 転移癌は11.0%と限局癌の占める割合が高くなっている2).

