バイオマーカー・トピックス(No23.2008年8月8日)
バイオマーカーの探索・発見・適応への関心が内外で急速に高まってきています。トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等のポストゲノミクス研究の急速な進歩と実用化、テーラーメイド医療の進展、癌などの各種疾病の早期発見・診断への関心の高まりなどを背景に、それに寄与できるバイオマーカーが注目されてきているからです。
「バイオマーカー・トピックス」は内外で発信される数多くのニュースや雑誌記事、論文などから適宜選んで、その要約やポイントを日本語で紹介するものです。
皆様の研究活動やビジネスに少しでも役立てばと願っています。
なお、翻訳はサイリックが担当しており、専門用語などは的確でない場合もあることをご容赦ください。また長文の場合はサイリックの判断で一部のみを紹介しています。正確なことは直接原典で確認してください。(多田 丞)
<目次>
○米・バイオマーカー・コンソーシアム、“ハイ・インパクト”バイオマーカー・オポチュニティ・プロジェクトを開始 1
○アルツハイマー病の根本的治療薬、今後10年以内に実用化―厚労省会議... 6
○若い乳癌(がん)患者の悪性度が高いのは遺伝子活性が原因... 8
○遺伝子治療、大きな一歩、今週にも「核酸医薬」初登場、日本勢に活躍チャンス.. 9
(2008年6月18日)
○米・バイオマーカー・コンソーシアム、“ハイ・インパクト”バイオマーカー・オポチュニティ・プロジェクトを開始
―この戦略的取り組みは、診断の改善、疾患等の進展の測定、治療ガイド、新薬開発の加速化、個人に合わせた標的治療などを支援するものとなろう―
サンディエゴ、2008年6月18日発表
バイオマーカー・コンソーシアムは、NIH(国立健康研究所)財団によって設立・管理されているが、本日、公的・私的組織間のパートナーシップに基づくコラボレーションをめざす新しい組織として「ハイインパクト・バイオマーカー・オポチュニティーズ」を設立したと発表した。
ハイインパクト・バイオマーカー・オポチュニティーズは、実用的かつ最優先領域のバイオマーカーの同定、開発、適格化の実現を目指し、それによって患者の診断、ケアおよび治療を改善するとともに新しい治療法の開発を促進することを約束しようとするものである。
バイオマーカー・コンソーシアムは、バイオテク企業及び製薬企業と政府、研究者(大学研究室等)、非営利組織の4つの重要領域でバイオマーカーの探索・同定、開発および規制当局への申請・受理等を加速するために働いているリーダーを集め(後述の53の組織・企業が参加)、ヘルスケアの研究や医薬・医療の製品開発の根本的な変化を促そうとしている。
この場合、バイオマーカーは四つの領域、すなわち、がん、炎症・免疫、メタボリック症候群、神経疾患がキー領域として挙げられている。このプロジェクトの結果は、世界中の研究者に利用可能になるものである。
バイオマーカーとは、疾病リスクの有無や診断、進行、治療選択等の客観的判断を根本的(本質的)に改善することができる生物学的プロセスの客観的な測定方法である。さらに、それらは、新しい治療の開発とその臨床適応の両方を革新するものとなると期待されている。また、ある場合には、それらは治療の初期段階などにおいて「行うべきか("go/no go")の意思決定を可能にしてくれるかもしれないし、またある場合には、治療の効能や投薬量、安全性などの明瞭な指示(インジケーター)を用意してくれることで、新薬開発などのコストや期間を大きく削減してくれるものになるかもしれない。
バイオマーカーは、エビデンスベースの医療(EBM)の基盤であり、さらには、より個人的で、より予知的で、より先制的(preemptive)な医療を実現するのに必要である。
バイオマーカー・コンソーシアムは、米国国立のヘルスケア・システム中のメジャーなステークホルダーであるNIH(国立健康研究所:National Institutes of Health)、FDA(米国食品医薬品局:Food and Drug Administration)、CMS(メディケア・メディケイドサービスセンター:Centers for Medicare & Medicaid Services)、 PhRMA(米国研究製薬工業協会:Pharmaceutical Research and Manufacturers of America)、BIO(全米バイオ産業協会:Biotechnology Industry Organization)が中心となって参加しているほか、非営利組織および患者支援グループ等も参加している。
バイオマーカー・コンソーシアムの執行委員会議長兼NIH財団議長であるチャールス・A・サンダースM.D.は「私たちは、このハイインパクト・バイオマーカー・オポチュニティーズが、これらの分野において前進する上でもっとも重要なものであると確信している。それらは、将来の患者の診断や治療、新薬開発、パーソナライズド医療を実現するために医学界を支援するもとなるだろう。これまでにおいても、過去のバイオマーカー、例えばコレステロール値や血糖量の測定の場合でも、その発見は医学に著しい変化を引き起こした。これからの科学的な研究による新しいバイオマーカーの協力的な発見とその資格化は、疾病を評価し、治療する際に以前と同様の劇的な結果をもたらす見込みが十分にある」と、その抱負と展望を語っている。
バイオマーカー・コンソーシアムはハイインパクト・バイオマーカー・オポチュニティーズを定義するためにキーとなる一定数のクライテリア(基準)を開発した。
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Important — |
addresses a significant unmet medical or scientific need in biomarkers with a potentially considerable impact on public health; |
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Translational — |
will result in significant improvement in the development, approval, or delivery of care to patients (i.e., diagnostics, therapeutics, clinical practice); • |
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Transformational — |
addresses critical gaps in the biomarkers qualification/validation process and/or may otherwise transform the process of how biomarkers are developed, approved, and applied in the future; |
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Feasible — |
an idea or program whose end goals can likely be achieved in a specific timeframe, and that has a reasonable prospect of producing the expected outcomes; ideal programs are those which could result in regulatory qualification of a biomarker in three years; |
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Practical — |
leverages preexisting resources (e.g., intellectual capital, personnel, facilities, specimens, reagents, data) wherever possible; • Fundable — is capable of generating the required funding and stakeholder support needed for implementation; and |
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Fundable — |
is capable of generating the required funding and stakeholder support needed for implementation; and |
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Collaborative —
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would uniquely benefit from the multi-stakeholder composition and approach of The Biomarkers Consortium, and could be feasibly executed under its policies. |
バイオマーカー・コンソーシアムはバイオマーカーの開発及び標準化のために可能で、かつ最適なメカニズムを用意している。すなわち、公・民間部門の両方が統合でき、かつ科学的、知的、財政的、洞察的な実施を可能にするための共通の基盤を準備している。
バイオマーカー・コンソーシアムによって承認されたプロジェクトのコンセプトは、今、詳細に検討され、包括的なプロジェクト計画が練られている。それらは、まずコンソーシアムのリーダー達によって承認され、その後、NIHの財団が正式な資金援助を行い、プロジェクトが実施されるようになっている。
・FDG-PETを用いるNCIが管理する二つの研究で、非ホジキンリンパ腫及び非小細胞肺癌の中で導かれる臨床試験用の潜在的なバイオマーカーの発見・開発プロジェクト
*FDG-PET(Fluorodeoxyglucose‐Positron Emission Tomography:フルオロデオキシグルコース‐陽電子断層撮影)
これらの研究は、治療に対する反応を判断することができるツールを開発する事で患者管理システムに大きなインパクトをもたらすとともに、新薬開発の加速化にも貢献するものとなるであろう。このプロジェクトはNCIが中核的な投資を行い、これにアムジェン、アストラゼネカ、ブリストル・マイヤーズ・スクイーブ、ジェネンテック、グラクソスミスクライン、ジョンソン・アンド・ジョンソン、メルク、ファイザー、ワイスの9社が協力し、643万ドルの資金が提供される。
例えば、先行的に実施された種々の研究(Previously Conducted Studies)から得られた臨床試験データの蓄積(Pooling Existing Clinical Trial Data)による血糖値に関する予知的バイオマーカー(Biomarker Predictive of Glycemic Efficacy)として明らかになったアディポネクチン(Adiponectin)のユーティリィティを評価すること―それがアデポネクチンか、それとも単なる可溶性のタンパク質であるかを決定するもの―で、それによって非糖尿病の健常な患者あるいはPPAR(peroxisome proliferator-activated receptor:ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体)アゴニストによる治療を必要とする2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)患者での血糖値のコントロールを行うための予知的バイオマーカーとして応用できるとともに、新しい治療を開発することにも寄与できるであろう。
第Ⅱ相試験から得られたデータは、グラクソスミスクライン、イーライ・リリー、メルク、F.ホフマン・ラ・ロシュの4社が提供しており、これらのデータは現在、米国立糖尿病消化器腎疾患研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases:NIDDK)およびクインタイルズ・トランスナショナル社が統計的解析を行っている。
また、NHLBI(米国国立心臓・肺・血液研究所:National Heart Lung and Blood Institute)のAIM-HIGH(低HDLコレステロール/高トリグセライドを伴うメタボリック症候群におけるアテロスロンボシス介入試験)のサブスタディによる頚動脈MRI再現性研究(Carotid Magnetic Resonance Imaging Reproducibility Study)がある。これは、頚動脈MRIによる非侵襲性手法の応答性を決定するために15の臨床試験サイトで80名の患者を用いた再現性試験を行い、それらの治療の反応測定を支援できるツールの開発・改善及び新薬開発の促進を約束するものである。これには良く知られているイメージング・バイオマーカーが用いられ、既に行われているNHLBI支援の研究をてこ入れするものであり、アボット、メルク、ファイザーによって957千ドルの資金援助が行われている。
バイオマーカー・コンソーシアムは今年(2008年)少なくとも5つ、6つの新しいハイインパクト・バイオマーカー・プロジェクトを開始する予定となっている。また、一方では2009年に開始される予定の新しい研究・開発も準備されている。
これらの新しいハイインパクト・バイオマーカー・オポチュニティーズは2008年6月19日(木)にサンディエゴで開催された2008 BIO International Conventionでのコンソーシアムによって支援された二つのスーパー・セッションで議論される予定である。
一つは3;30からのパネルで、ここでは「公的私的機関のパートナーシップを通してのヒトの健康に関するバイオマーカーの開発と同定を加速するため」の検討が行われる。
二つは、5:30からのパネルで、「バイオマーカー・コンソーシアムの約束と前進」と題して、特に癌マーカーの開発に関するコンソーシアムの努力について議論される。
NIHの財団のコミュニケーション活動は、一部はFleishman-Hillardによって寄贈されたプロフェッショナル・サービスに支援されている。
NIH財団そのものは、科学的発見を通して国民の健康の改善に寄与するために、NIHのミッションを支援しようと連邦議会によって設立されたものである。非営利で501(C)(3)に規定される組織であるこの財団は、NIHの活動を補足もしくは増強することを目的として独自のプログラムによる広範囲なポートフォリオを展開するために財政的な支援を受けている。
<バイオマーカー・コンソーシアムについて>
バイオマーカー・コンソーシアムの創設メンバーにはNIH財団のほかに、NIH、FDAおよびPhRMAが参加している。
その他のパートナーとして、CMS(メディケア・メディケイドサービスセンター)、BIOがある。
また、コンソーシアムに寄付している53の会員がある。それには、次のところが含まれる。
Academy of Molecular Imaging;
Advanced Medical Technology Association;
Alliance for Aging Research;
Althea Technologies;
Alzheimer’s Association;
American Association for Cancer Research;
American Cancer Society;
American College of Neuropsychopharmacology;
American Health Assistance Foundation;
American Society for Clinical Pharmacology and Therapeutics;
American Society of Clinical Oncology;
American Society for Therapeutic Radiology and Oncology;
Association of Clinical Research Organizations;
AstraZeneca;
Autism Speaks;
Avalon Pharmaceuticals;
Battelle Memorial Institute;
BG Medicine;
Biotechnology Industry Organization;
Boehringer-Ingelheim
Pharmaceuticals, Inc.;
Bristol-Myers Squibb;
Digilab Biovision;
EMD Serono;
Federation of Clinical Immunology Societies;
Michael J. Fox Foundation for Parkinson’s Research;
Genstruct Inc.;
GlaxoSmithKline;
GVK BIOSciences;
High Q Foundation;
Immune Tolerance Institute;
Ingenuity Systems, Inc.;
Johnson & Johnson;
Juvenile Diabetes Research Foundation;
Kidney Cancer Association;
The Leukemia & Lymphoma Society;
Eli Lilly & Company;
Luminex Corporation;
Lundbeck;
Lupus Foundation of America;
Lupus Research Institute;
Merck & Co., Inc.;
Novartis;
Novo Nordisk;
Pfizer Inc;
Pharmaceutical Research and Manufacturers of America;
Polo Ralph Lauren Foundation;
Radiological Society of North America;
F. Hoffmann-La Roche;
Rules Based Medicine, Inc.;
Ryan Licht Sang Bipolar Foundation;
Society of Nuclear Medicine;
Vanderbilt University and Wyeth.
Consortium Web site: www.biomarkersconsortium.org
.以上
(2008年7月4日)
○アルツハイマー病の根本的治療薬、今後10年以内に実用化―厚労省会議
厚労省は、「第4回認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト(6月30日開催)」で取りまとめた認知症対策の一環として、アルツハイマー病の根本的治療薬を今後10年以内に実用化させる計画を明らかにした。
厚労省は、認知症の総合的対策として、1.発症予防対策、2.実態の把握、3.診断技術の向上、4.治療方法の開発、5.発症後の対応という5つの視点を掲げている。
【今後の対策】
発症予防
現在、アルツハイマー病の予防介入の効果を検討する一部地域住民を対象とした研究を開始した。今後5年以内を目標にアルツハイマー病の促進因子・予防因子を明らかにして有効な予防方法を見いだす。
診断技術の向上
現状では質問などによる神経心理検査、MRI、CTといった形態画像検査、脳内の糖代謝を測るFDG-PBT、脳血流シンチグラフィーといった機能画像検査、髄液バイオマーカーなどを用いて診断が行われている。
ただし、実施できる施設が限られており、髄液を吸い上げる髄液バイオマーカーの検査については、人体への危険性が高いなどの課題がある。アルツハイマー病の診断をより早期に、確実に、安全に診断するため、血液・尿から検査するバイオマーカーなど研究が現在進められているが、今後5年以内にこれらの早期診断の技術の実用化を目標とする。
治療方法の開発
現在、アルツハイマー病に対し「アリセプト」の商品名で知られるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が用いられているが、この薬は認知症の進行を遅らせる効果はあるが、進行を止めることはできない。
アルツハイマー病の進行を止められる可能性のある根本的治療薬としては、アルツハイマー病の原因として考えられるアミロイドβの蓄積を減らす治療薬に対する期待があるが、アメリカでは1年で終える臨床治験も、日本では3年ほどかかるなど遅れをとっている。今後、治験実施拠点の整備を進めるとともに研究開発に十分な資源を確保し、10年以内の実用化を目標に研究を推進する。
発症後の対応
これまでの研究で、適切なケアや環境によって、介護者や本人の負担の大きい徘徊、妄想などの認知症の行動や心理症状を予防・改善できること、中核症状に対する適切な支援により日常生活を維持することができることが知られている。2006年4月より介護老人保健施設で導入された軽度認知症に対する「短期集中認知機能リハビリテーション」が、徘徊、妄想などの認知症の行動や心理症状、中核症状の改善に有効であることが示された。
また、これまでのケアは、個人の経験にもとづいたり、重症度別サービス種類別に個別に行われ、経験的、断片的な傾向があった。現在、「どんな認知症の患者に対して、どんな状況でどんなケアが有効であったか」を解析する認知症ケア高度化推進事業が開始されており、今後は科学的根拠に基づいた総合的、継続的なケアを目指す。
(2008年7月14日)
○無煙タバコ製品もがんリスクを増大させる
嗅ぎたばこ、噛(か)みたばこなどの無煙たばこ製品(STP)によっても、喫煙ほどではないものの、癌(がん)リスクが増大するとの報告が英医学誌「Lancet Oncology」7月号(肺癌特集号)に掲載された。
フランス、国際癌研究機関(International Agency for Research on Cancer)のPaolo Boffeta博士らの研究チームによると、無煙たばこ製品にはニトロソアミン、金属類など、30種類を超える発癌性物質が含まれているという。世界各国の研究を分析した結果、無煙たばこ製品を使用する人は口腔癌リスクが80%、食道癌リスクが60%高いことが判明したほか、膵癌にも同程度のリスク増大が認められた。米国の研究では肺癌リスクが80%増大することも示されたという。
無煙たばこ製品による癌の比率は国によって異なり、例えば、インドおよびスーダンでは口腔癌の50%以上、米国では4%が無煙たばこ製品によるものと考えられている。総合的にみて、無煙たばこと癌との間に強い関連があることが複数の研究から裏付けられており、無煙たばこを喫煙の代替とすることは勧められないという。
しかし、たばこを一切使用しない人よりは、無煙たばこ使用者の方が癌リスクは高いものの、米国およびヨーロッパのデータでは、癌リスク、特に口腔癌および肺癌のリスクは、喫煙者よりも無煙たばこ使用者の方が低いという。また、米国およびスウェーデンのいくつかの研究とモデルから、喫煙から無煙たばこへ切り替えることにより見込まれる利益についてもデータが得られているという。ただし、喫煙によるリスクを軽減するために、無煙たばこへの切り替えを促すような明確な働きかけをする意図はないと、研究グループは述べている。
同号に掲載された別の論文では、特定のバイオマーカーについてDNAスクリーニングを行うことによって、受動喫煙での肺癌リスクを評価できることが示された。たばこの煙に含まれる発癌物質の多くがDNA付加体と呼ばれるDNAの損傷を引き起こし、癌関連遺伝子の特定部位に変異を生じさせる形で特有の痕跡を残すことが知られているという。
現在、この痕跡の検知にはDNA損傷フットプリント法と呼ばれる技術と変異原性解析法が併用されている。著者らは、喫煙による肺癌で変異のみられる癌関連遺伝子にこの技術を用いることを提唱している。この技術はすでに、さまざまな喫煙由来の発癌物質による付加体の発見に用いられ、成功を収めているという。
(Dr.赤ひげ.com 「週刊米国健康ニュース」より)
(2008年7月14日)
○アルツハイマー病を早期に検知する新しい検査法
認知症のリスクのある高齢者を診断するほか、日常生活で補助の必要な人を洗い出すことも可能な新しい質問表が開発された。この「日常的認知測定法(Everyday Cognition Instrument)」は39の質問から成り、患者をよく知る人が回答する方式。
開発した米カリフォルニア大学デービス校助教授のSarah Tomaszewski Farias氏によると、「軽度認知障害のある患者で、神経心理学的(neuropsychological)検査の成績の低さに加えて機能的障害がみられる場合、近い将来疾患が進行する可能性が高いことが複数の研究から示されている」という。この質問表により、厳重な観察の必要な患者や、機能的障害があり補助を必要とする患者を特定することができる。また、アルツハイマー病のリスクが高い人を非常に早い時期に見つけるのにも役立つと期待されるという。
別の専門家は、スクリーニング、診断のほか、薬剤開発の際の有効性の裏付けなど、さまざまな面で利用できる可能性があると述べている。この知見は、医学誌「Neuropsychology」7月号に掲載された。
従来の神経心理学的検査は、極めて難解な傾向がある。この種の検査では過去40年、2つのカテゴリーに着目してきた。後期の認知症で影響がみられるいわゆる「基本的」動作(身だしなみ、食事、着替えなど)と、「道具的(instrumental)」日常生活動作(薬剤管理、金銭管理、料理、運転など)である。「われわれが使用する神経心理学的検査や認知検査が、どのような日常的問題を反映するものなのかを理解することに関心があった」とFarias氏はいう。
Farias氏らは、日常的機能を7つの区分(記憶、言語、意味的知識ないし事実についての知識、視覚能力および空間能力、計画、体制化、注意分割)に分類。元は138あった質問項目を最終的に39に絞り、高齢者576人を対象に試験を実施した。このうち174人は認知が正常であり、126人は軽度認知障害(MCI)、276人は認知症と診断されていた。「情報提供者」(過去平均45年にわたり患者を知る人)が、リストがなくても買うものを覚えられるか、地図を読めるか、金銭管理ができるか、料理や仕事をしながら話をすることができるかなどを患者について回答した。
この質問表により、すでに下されている診断を裏付けることができたほか、機能面の微細な差を感知することができ、完全な認知症と軽度認知障害との識別が可能であった。また、既存の方法と同様、職業や教育水準による影響も少なかった。今回の研究は開発の第一歩であり、機能的障害の初期の徴候をさらによく理解するために、今後時間をかけて被験者を追跡したいとFarias氏は述べている。
(Dr.赤ひげ.com 「週刊米国健康ニュース」より)
(2008年7月28日)
○若い乳癌(がん)患者の悪性度が高いのは遺伝子活性が原因
乳癌(がん)は患者が若年であるほど侵襲性が高く、放射線療法、外科手術、化学療法などの既存の治療への応答性も低い上、再発率が高く生存率が低い傾向にある。その理由は、癌細胞の遺伝子活性によって説明できることが米デューク大学(ノースカロライナ州)のKimberly Blackwell氏らの研究で示され、医学誌「Journal of Clinical Oncology」7月10日号に掲載された。
今回の研究では、45歳以下および65歳以上の2つの集団から採取した早期乳癌の検体約800例を分析。その結果、若年女性にのみ活性のみられる遺伝子セットが350以上あることが判明。この遺伝子セットは、免疫機能、BRCA1などの乳癌関連遺伝子、幹細胞の生態、細胞死、さまざまな癌のシグナル伝達経路などを制御するものであった。
このほか、若年女性では、エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌の比率が低い(若年群71%、高齢群80%)、HER2/neu蛋白(たんぱく)の過剰発現の比率が高い(同52%、26%)、悪性度の高い腫瘍が多い(同56%、26%)、腫瘍サイズが大きい、リンパ節陽性の比率が高い(同38%、25%)、再発率が高いことなどが判明した。40歳未満は40~45歳に比べて再発率が高かったが、40歳未満のサブグループ間では差はみられなかった。
現在、若年患者の治療に有望性のある薬剤の開発が進んでいるが、実際に利用できるようになるのは数年先だという。今回の研究は、現在すでに乳癌に罹患している若年女性にとっては意味のないものだが、5年、10年先にはこのような研究が意味をもち、HER2/neuを過剰発現する癌を標的とするハーセプチン(一般名トラスツズマブ)のような新薬がもっと登場するはずだと専門家は述べている。
(Dr.赤ひげ.com 「週刊米国健康ニュース」より)
(2008年8月7日)
○遺伝子治療、大きな一歩、今週にも「核酸医薬」初登場、日本勢に活躍チャンス
(2008年8月7日「日本証券新聞」より)
遺伝子レベルでの病気治療―一昔前まではSF物語の一説の出来事でしかなかった夢の医療は、もうそう遠くない未来に実現できそうな気配だ。
「核酸医薬」の開発競争が世界レベルで活発化している。核酸医薬とはDNAやRNAを構成する塩基配列の組み換え技術を利用した薬のこと。遺伝子に直接働きかけることで病気の原因を取り除くことがその目的で、化合物を患部に反応させることで治療を図る従来型の「抗体医薬」とは、一線を画す次世代薬だ。
核酸医薬の特徴は、利用者から見れば、特定の病気に絞った治療薬を創出することができるので、抗体医薬よりも副作用が少なくて済むということ。開発側の視点から見ても、何千何万という種類の化学物質の中から新薬候補を探索して研究する手間が省けるという利点がある。
バイオ創薬の分野でも、開発が先行している抗体医薬研究よりも、割安な研究コスト負担で開発可能な核酸医薬の分野への注目が度が高まっており、世界の大手も巻き込んだ開発競争が勃発中。そのジャンルも複数にわたる。(下表参照)
国内でも、既に、米系製薬大手のファイザーがこの7月に、厚生労働省から日本で初めての核酸違約の承認を取得しており、加齢などにより視力が低下する「加齢黄斑変性症」を適応症とする眼科薬「マクジェン」を、今秋にも発売する見込みになっている。
ただ、実は、ここまで上市にこぎつけられた核酸医薬は「アンチセンスDNA」「アプタマー」のジャンルから、いずれも眼科疾患を適応症としたもの。
もちろん、これ以外にも、がんや関節リウマチ、IBD(炎症性腸疾患)、アトピー性皮膚炎など、局所性疾患への幅広い応用が期待されている核酸医薬だが、その適応症拡大のためには「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」の確立」という難題を解決しなければならないことも事実。開発後も、量産化にコストがかかるという問題点があって「アンチセンス」などのジャンルで、後に続く薬を開発することは非常に難航しているようだ。
こうした中で、最近注目を集めているのは「siRNA」の分野。2006年度のノーベル医学生理学賞を受賞した二人の米国人医師が発見した「RNA干渉」という現象を利用した技術で、生物の遺伝情報を伝える重要な役割を担いながら、時には体内の疾病情報まで増殖させてしまうことで病気の発現要因ともなりうる「mRNA」を破壊する技術だ。
アンチセンスよりも生体内での安定性や安全性が高く、効力の面でも数十倍も勝るとされ、しかも開発の手間が小さく、量産化コストも安いという利点を持つ。
核酸医薬研究の中でも比較的歴史の浅いジャンルで、同分野からの上市はいまだゼロ。ただ、だからこそ、拡散医薬の研究で選考していた欧米企業に、後発の日本企業が太刀打ちできる分野とも言える。
株式市場では日本新薬が開発した独自のsiRNA合成技術やDDSに、将来性を読む声が上がっている。ほか、アムジェン買収で攻勢を強める武田薬品。また、米国企業から海外にフェーズⅡ段階にあるsiRNA薬品を導入した協和発酵などが注目企業だ。アンジェスMGやナノキャリアなどのバイオベンチャーも関連銘柄から外せない。
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核酸医薬の主な分野類 |
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アンチセンスDNA |
標的遺伝子のmRNAと相補的配列を持つ核酸医薬。mRNAに結合することで遺伝子発現を阻止する |
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siRNA |
RNA干渉(RNAi)作用を持つRNA。二本さRNAを細胞外から導入し、mRNAを分解する |
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リボザイム |
生体触媒としてのRNAで、RNAの切断や貼り付け、挿入などを行う |
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アプタマー |
高度に特異的な三次元構造をとる化学合成の短いRNA製剤。特定のタンパク質に結合する |
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デコイ核酸 |
アプタマーの亜種。特定たんぱく質の「囮(デコイ)」となり結合することで、遺伝子発現を抑制 |
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主な核酸医薬の関連銘柄 |
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協和発酵 |
2002年からsiRNA研究に着手。米アルナイラムから海外フェーズⅡ段階のsiRNA医薬品を導入し、早期に国内フェーズⅠ試験いるを目指している |
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武田薬品 |
アルナイラムと100億円規模のライセンス契約を締結し、共同研究を開始。アジア企業で唯一の特許許諾で同業との連携加速の公算も |
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日本新薬 |
「カチオニックリボゾーム」でsiRNAを含むDDS技術を開発。RNAを合成する技術力も高く、今後の技術導出に期待感 |
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アンジェス |
デコイ核酸の研究を手がける。アトピー性皮膚炎や関節リウマチなどを適応症とした治療薬の開発を目指す |
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ナノキャリア |
薬物放出制御に優れるDDS技術が事業の基盤。複数導出品が現在世界で研究中。siRNAでは、東京大学と共同研究を実施中 |
<参考情報>
核酸医薬の主な企業の取り組み一覧
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種類 |
企業 |
対象疾患 |
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アプタマー |
米・アルケミックス |
がん、自己免疫疾患など |
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リボミック |
多発性硬化症 |
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RNA干渉薬 |
米・アルナイラム |
高コレステロール症など |
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ジーンケア研究所 |
肝臓がん |
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デコイ |
独・アボンテック |
ぜんそくなど |
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アンジェスMG |
リウマチ、炎症性疾患 |
(出所:日経産業新聞 2008年7月22日付け 「動き出す核酸医薬(上)」)

