バイオマーカー・トピックス(No24.2008年8月18日)
バイオマーカーの探索・発見・適応への関心が内外で急速に高まってきています。トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等のポストゲノミクス研究の急速な進歩と実用化、テーラーメイド医療の進展、癌などの各種疾病の早期発見・診断への関心の高まりなどを背景に、それに寄与できるバイオマーカーが注目されてきているからです。
「バイオマーカー・トピックス」は内外で発信される数多くのニュースや雑誌記事、論文などから適宜選んで、その要約やポイントを日本語で紹介するものです。
皆様の研究活動やビジネスに少しでも役立てばと願っています。
なお、翻訳はサイリックが担当しており、専門用語などは的確でない場合もあることをご容赦ください。また長文の場合はサイリックの判断で一部のみを紹介しています。正確なことは直接原典で確認してください。(多田 丞)
<目次>
最近の医学雑誌におけるバイオマーカー(腫瘍マーカー)関連の論文紹介... 1
○分子マーカーを標的とするIn Vivoイメージング法の開発... 2
○腫瘍マーカーってどんなもの?-解釈とそのピットフォール... 2
○HLA分子による癌特異抗原の提示を利用した癌免疫療法の開発... 4
○抗結核菌抗体様物質の測定方法―新しい腫瘍マーカーの発見.... 4
○グライコミクス研究の基盤技術開発と糖鎖バイオマーカーの網羅的発見に向けて... 5
最近の医学雑誌におけるバイオマーカー(腫瘍マーカー)関連の論文紹介
○乳癌と分子マーカー
石岡千加史(東北大学加齢医学研究所・癌化学療法研究分野)
(癌と化学療法 Vol.35 No.8 2008年8月 1261-1268 癌と化学療法社)
<要旨>
乳癌の分子マーカーは長年研究され、その一部は予後予測や治療選択に用いられてきた。現在、ホルモン受容体陽性早期乳癌の予後を予測し、術後補助療法の治療方針の決定し得る新しい分子マーカーの開発が期待されている。最近の乳癌の分子マーカーの研究の進歩により、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は2007年に乳癌における腫瘍マーカーのClinical Practice Guidelineを改訂した。この改訂では、新たに六つのカテゴリーが追加されたが、そのなかで遺伝子発現解析法について最近の知見をまとめる。
○分子マーカーを標的とするIn Vivoイメージング法の開発
古川高子(放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 分子病態イメージング研究グループ)
(癌と化学療法 Vol.35 No.8 2008年8月 1269-1271 癌と化学療法社)
<要旨>
分子イメージングは、生体内の分子や細胞の機能を画像としてとらえる。腫瘍診断における分子イメージングでは、その特徴をいかし、治療効果のモニタリング、治療効果の予測などを通して、より治療に貢献する情報を提供すべく開発が進められている。分子イメージング法の開発においては、ターゲットの選択、イメージングプローブのデザインと合成、in vivoにおける検証が重要である。いかにターゲッを選択し、それに対するイメージングプローブをデザインするかについて概説し、また、細胞増殖を標的とするFLT、低酸素を標的とするCu-ATSM、血管新生を標的とするRGDペプチド、受容体プロテインキナーゼを標的とするキナーゼ阻害剤や抗体を用いるイメージング法について解説を加えた。
○腫瘍マーカーってどんなもの?-解釈とそのピットフォール
日裏久英、佐守友博(日本医学臨床検査研究所)
(月刊薬事 Vol.50 No.8 2008年8月号 P1197-1201 じほう)
<抜粋>
はじめに
臨床検査で使われる腫瘍マーカーということばの意味について説明する。まーかーは、目印、標識あるいは印をつける人・物という意味の英語「marker」である。腫瘍は本来“できもの”の学術用語で、良性腫瘍と悪性腫瘍の二つに分けられる。ここでいう腫瘍はもちろん悪性腫瘍を指す。悪性腫瘍には「がん:上皮性悪性腫瘍」と「肉腫:非上皮性悪性腫瘍」の二つがあり、主要マーカーはこのがん・肉腫両方のマーカーであるが、理解しやすくするため本稿では腫瘍をがんと表現する。よって腫瘍マーカーは、がんの目印あるいは『がんがありますよ』と知らせてくれる物(質)という意味に用いられている。
この腫瘍マーカーという名前のために、腫瘍マーカーの測定値が、カットオフ値以下(基準範囲内)だとがんがない、カットオフ値以上(基準範囲を超える)だとがんがあると勘違いされる。
本来は、このようにがんの有無を診断できるものが理想的な腫瘍マーカーである。例えば、がん患者の血液(尿や糞便でもよい、以下同じ)にしか存在しない物質(がん特異物質)が発見されれば、それは理想的な腫瘍マーカーの一つになりうる。それでも、そのがん特異物質が血液中に検出できるようになる(がんから血液中に出てくる)ころには、がんが治療できないくらい進行しているというのでは、全く理想的とはいえない。
腫瘍マーカーの定義は「血液、尿、糞便及び組織などから採取された生体材料で、簡便に測定できて、がんの診断または治療に役立つ物質」とすることができる。腫瘍マーカーは、前述のようにがんの有無を診断するスクリーニング検査としての有用性が期待されるが、残念ながら現在のところその期待に応えられるものはほとんどない。これは、現在の腫瘍マーカーが健常者にもある程度の量が存在し、がんになるとその量が増えるが、一部良性疾患でもその量が増えるものがほとんどであるからである。そして、がんの種類、できた部位、患者の個人差などさまざまな要素によって、血液中に出てくるスピードや量が異なるからである。そのため同じがんでも、患者によっては腫瘍マーカーの異常値からがんが発見されることもあれば、腫瘍マーカーが異常値を示さず発見されないこともある。また、患者によっては十分治療に間に合うこともあれば、もう手遅れのこともあるのが実情である。このあたりが、他の臨床検査項目と大きく違う点であることを最初に理解していただきたい。
従って、多くの腫瘍マーカーはがんの有無のスクリーニングというよりも、がんのあることが他の診断法で確定できた患者で、いくつかの腫瘍マーカーの測定値が異常を呈した場合、治療効果の判定と治療後の経過観察中の再発診断に使われることが多い。ここでは、日常の臨床検査でよく用いられている腫瘍マーカーについて、その検査値の見方とピットフォールを概説する。
<種々の臓器別がんと用いられる主な腫瘍マーカーの例>
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肝がん |
α-fetoprotein(AFP)、protein-induced vitamine K absence Ⅱ(PVKA‐Ⅱ) |
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胃がん |
carbohydrate antigen 19-9(CA19-9)、carcinoembryonic antigen(CEA)、pepsinogen 1/Ⅱ |
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膵がん |
CA19-9、DUPAN-2、tissue polypeptido antigen(TPA) alastase 1 |
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大腸がん |
CEA、CA19-9、便潜血 |
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乳がん |
CEA、carbohydrate antigen 15-3(CA15-3)、ErbB-2 |
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子宮がん |
Squamous cell carcinoma(SCC) antigen、CEA、CA19-9 |
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卵巣がん |
carbohydrate antigen 125(CA125)、CEA、CA19-9 |
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前立腺がん |
prostate specific antigen(PSA)、TPA |
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肺がん |
Cytokeratin fragment 21-1(CYTFRA21-1)、CEA、 pro-gastrin-releasing peptide(proGRP) |
(以下省略)
○肝臓癌の診断のサーベイランス
北順二, 窪田敬一(獨協医科大学第二外科)
(Modern Physician 2008年7月号 「消化器癌 21世紀のサーベイランス」 P1041-1046 新興医学出版社)
<要旨>
肝細胞癌の発癌は, ウイルス肝炎の持続感染に影響されることが圧倒的に多い. ・肝細胞癌の画像診断サーベイランスは, 超音波検査が主体である. ・超音波検査で描出困難な際は, 他の画像診断を積極的に併用する必要がある. ・肝細胞癌診断のサーベイランスは, 今後のRCTの結果に期待するところが大きい. 肝細胞癌は, B型もしくはC型肝炎ウイルスの罹患を機転にして発症することが多く, 検診による肝炎ウイルス罹患患者の洗い出しは重要な意味を持つ. 罹患患者に対しては, 定期的な外来フォローを行い, 肝細胞癌を早期に発見し治療することが予後の延長に寄与すると考える. 外来経過観察中に行われる検査は, コストベネフィットの観点から, おもに超音波と腫瘍マーカー測定である. しかし, その検査の期間や他検査の併用を必要とするのかについては一定の見解がなかったものの, 本邦では2005年に肝癌の診療ガイドラインが作成され1)科学的根拠に基づいたサーベイランスアルゴリズムが提案された.
○膵臓癌とサーベイランス―臨床診断の立場から
白鳥敬子, 大橋美穂, 清水京子(東京女子医科大学消化器内科)
(Modern Physician 2008年7月号 「消化器癌 21世紀のサーベイランス」 P1047-1051新興医学出版社)
<要旨>
『科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版』で, 膵癌診断のアルゴリズムが提示された. ・膵癌検出のためのファーストステップは, 血中膵酵素, 腫瘍マーカーの測定と腹部超音波検査である. ・初発症状として腹痛や背部痛などの疼痛が約40%あり, 一過性で軽度でも見逃さないことが大切である. ・膵癌の危険因子として, 膵癌家族歴, 合併症として糖尿病や慢性膵炎, 喫煙があり, 無症状の多危険因子群での定期的な膵癌検診により小膵癌発見率の向上が期待される. ・糖尿病発症して3年以内の症例, あるいは糖尿病増悪例では膵癌併発を念頭に, 積極的に膵癌検出の検査を行う. わが国の膵癌の年間死亡数は約2万人である. 近年の画像診断の飛躍的な進歩によっても, 発見される膵癌症例の大半はstageIVで長期予後が期待できる小膵癌の発見頻度は著しく低い1). また, 膵癌は腫瘍径が小さくとも浸潤性が高いため外科的根治術が可能な症例はさらに限られ, 多くが予後不良である.
○HLA分子による癌特異抗原の提示を利用した癌免疫療法の開発
千住覚, 西村泰治(熊本大学大学院医学薬学研究部・免疫識別学分野)
(MHC(日本組織適合性学会誌) 2008 P51-60 日本組織適合性学会)
<要旨>
「はじめに」 癌細胞にのみ発現する抗原を免疫することにより, 癌細胞を攻撃して破壊するT細胞を誘導する免疫療法を確立するために, 様々な癌抗原ワクチンの開発が試みられている. 従来, 正常組織に発現を認めず癌細胞に特異的に高発現する癌抗原を同定することは困難であったが, cDNAマイクロアレイ解析による癌組織と正常組織におけるゲノムワイドの遺伝子発現プロフィール解析により, 癌特異抗原の同定が飛躍的に進んだ. 我々は, この手法を用いて多数の癌特異抗原を同定し, これを用いた癌免疫療法の臨床試験を開始している. 本稿では, 肝細胞癌に高発現する新規癌胎児性抗原であるGlypican-3(GPC3)の発見と, GPC3由来のHLA-A2およびHLA-A24により細胞傷害性(キラー)T細胞に提示されるペプチドを用いた, 癌免疫療法の開発について紹介する. 樹状細胞は, T細胞の活性化において必須の役割を果たしているプロフェッショナル抗原提示細胞である.
○抗結核菌抗体様物質の測定方法―新しい腫瘍マーカーの発見
藤井 司
(医学検査, 57(4) : 441, 2008.)
【目的】近年、癌における画像診断の進歩は著しく、その診断能は飛躍的に向上した。その一方で、生体反応を鋭敏に捉え、初期癌を確定診断へと結論できる免疫血清学的検査方法は未だ確立されていない。
そこで演者は、種々研究を重ね免疫血清学的検査方法で、一つの結論を見出した。
【方法】10%ホルマリン液で結核菌を不活化。ホルマリン液を除去するため、滅菌蒸留水にて洗浄。菌液をMCFarland比虚病NO4に調整(画数約1,200万/m1)し、無蛍光スライドグラスに10’7-15μ滴下し、その後、免疫血清学的反応が良好な環境状態に置き基質を作製する。被検血清は50μ1で、5倍から2倍連続希釈し、基質と希釈被検血清25μ1と30分間反応させる。その後、余剰の被検血清を取り除くため・PBS緩衝液で洗浄後、 FITC網織抗ヒトイムノグロブリンと30分間反応させ、余剰の標識抗体を洗浄し封入。蛍光顕微鏡(400倍)にて観察する。
本発明方法では抗免疫グロブリン抗体は、抗IgM抗体と抗IgG抗体を使用する。
【まとめ】従来の腫瘍マーカーは、①初期癌(前癌状態)を把握できない。②正確な診断を下すためには多種類のマーカーを測定しなければならない、などの欠点を有している。今回、演者は癌を診断する方法に関し、免疫血清学的な研究を種々重ねた結果、癌患者の血清中に癌の発生に関連性を有し、かつ結核菌菌体および抗免疫グロブリン抗体の両者に反応性を有する抗結核菌抗体様物
1質が高濃度に存在することを見出した。当該、検査方法は1999年2月に特許を取得した。 (特許第2892814号)
また、研究中におけるアクシデントから、常在酵母であるCandida guilliermondiiにも結核菌と同様の反応が確認され、結核菌との相関性も良好なため、その後は感
染症としての危険度が低い、C. guilliermondiiを基質として研究を継続した。演者は、結核菌膜とC,guillierm。一ndiiの細胞膜には類似もしくは同種類のタンパク体様物質が存在すると推測している。今後、分析を継続する方針である。
○グライコミクス研究の基盤技術開発と糖鎖バイオマーカーの網羅的発見に向けて
成松久(産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センター)
(医学のあゆみ Vol.225 No.8 2008年5月24日号 P623-628 医歯薬出版)
<要旨>
糖鎖研究は敷居の高い研究として研究者からは避けてこられた. しかし, 糖鎖構造は細胞の分化成熟度を見事に反映することは古くから知られていた. 癌細胞は成熟細胞が未熟化したものであり, 劇的に糖鎖構造が変化する. そのほか, 免疫細胞の活性化, 再生医療における細胞の分化, 生殖細胞の成熟など, 多くの生命現象に糖鎖構造が深く関与していることが予想される. 糖鎖研究を分子論的に開始するためには, 以下の3要素の開発が必須であった. (1)細胞内における糖鎖構造を生合成する機構の解明, (2)その機構を解明した後, 自在に糖鎖を合成する技術の開発, (3)合成した糖鎖を標準物質として糖鎖構造を簡便に同定する技術の開発. この三大基盤技術の開発の後, はじめて糖鎖機能の解明が可能となるはずである. 産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センターでは, この三大技術をこの7年間で開発してきた. 糖鎖機能の解明は, 言い換えれば, 白黒テレビで生命現象を理解しようとしている時代から, カラーテレビで鑑賞する時代へと大きく世界を転換させることになる(東京大学薬学部入村達郎教授談). 糖鎖がかかわる重要な生命現象である癌, 免疫, 感染症, 再生医療などにおける糖鎖の役割の解明, ひいてはそれらに関連する病気の早期診断, 予後判断, 治療指針の判断, 新薬ターゲットの同定などにつながっていくと考えられる.
○疾患マーカーとしての可溶型糖転移酵素
北爪しのぶ(理化学研究所システム糖鎖研究グループ疾患糖鎖研究チーム)
(医学のあゆみ Vol.225 No.8 2008年5月24日号 P633-636 医歯薬出版)
<要旨>
細胞表面を覆う糖鎖は本来細胞内のゴルジ体で機能を発見するわけであるが、一方で糖転移酵素の切断された可溶型酵素が体液中に存在すること、癌や炎症反応の際に特定の可溶型糖転移酵素が量的に変動することが古くから報告されてきた。実際に可溶型ガラクトース転移酵素に特異的な抗体は卵巣癌診断薬として広く用いられてきたが、可溶型糖転移酵素の生理的意義や形成機構は不明であった。本稿ではシアル酸転移酵素ST6Gal 1の切断・分泌機構について述べた後に、可溶型酵素の肝疾患マーカーとしての可能性を論じるとともに、可溶型N-アセチルグルコサミン転移酵素Ⅴ自体に見出された血管新生促進作用など、最近得られたユニークな知見を紹介したい。
○がんエピジェネティクスの診断応用
牛島俊和(国立がんセンター研究所がん研究部)
(医学のあゆみ Vol.225 No.7 2008年5月17日号 P559-564 医歯薬出版)
<要旨>
5-azacytidineは、DNAメチル基転移酵素を阻害し、転写のサイレンシングを受けている遺伝子のプロモーション領域の脱メチル化を導く。一過性の骨髄毒性が認められるが、1/3~1/4の患者に血液学的改善が認められ、原疾患による感染や出血の頻度を増やさない。MDSかAMLへの移行を遅らす薬剤として最初にアメリカ食品医薬品局で承認された薬剤で、注射で用いる。p15INK4bの脱メチル化よりもむしろ細胞死が効果との関連性を示した。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤SAHAは、DNAに結合しているヒストンをアセチル化に導き、遺伝子の転写を変化させる。倦怠感・食欲低下・下痢・高脂血症・血小板低下などが一過性に生じるが、経口薬は特定の組織型の悪性リンパ腫に効果が認められつつある。
5-azacytidine:5-アザシチジン、5-AC、VidazaⓇ
MDS:骨髄異型形成症候群 myelodysplastic syndrome
AML:急性骨髄性白血病 acute myelogenous leukemia
○エピジェネティクス研究の現状と展望
豊田 実(札幌医科大学生化学講座)
(最新医学 第63巻第4号 2008年4月号 「エピジェネティクス」特集 735-742 最新医学社)
<一部抜粋>
●エピジェネティクス異常の診断への応用
これまでも、がんの診断に遺伝子変異を用いる試みがなされてきた。しかし、遺伝子変異を同定するには遺伝子の広範囲な領域を増幅し塩基配列を決定しなければならないため、多くの労力を要する。また、がんにおける遺伝子変異の頻度は高くても50%程度であり、より有用性の高い分子マーカーが必要であった。DNAメチル化は癌診断のための分子マーカーとしても有用である。特に、DNAをbisulfite処理することによりシークエンス法を用いてメチル化が検出できる技術が開発され、臨床検体を用いたエチル化解析が普及した。簡便なDNAメチル化検出法であるMSP法が開発され、その後Bissulfite-PCR法とReal-time PCR法を組み合わせたMethyLight法、Pyrosequencing法を組み合わせたBisulfite-pyrosequencing法へと感度、定量性の面で改良され、ハイスループットで正確なメチル化解析が可能になった。今後は、ゲノムアレイや大規模シークエンス法による網羅的メチル化解析が可能になると考えられる。
がんにおけるDNAメチル化の異常は遺伝子プロモーターに起こるので、1回のPCR反応により容易に検出が可能である。血液や尿、膵液や胆汁中など検体からのDNAメチル化検出の関して臨床応用が試みられている。
また、こうした変化を検体から検出することが可能となれば、慢性胃炎や潰瘍性大腸炎、慢性肝炎などの前がん病変を非侵襲的に効率良く見つけることが可能で、高リスク群の設定やがんの早期診断への応用が可能と考えられる。
<注>
bisulfite(バイサルファイト)処理:
DNAをバイサルファイト(亜硫酸水素塩)で処理すると、シトシン塩基はウラシルに塩基置換されるが、シトシンがメチル化されているとバイサルファイトによる反応から保護され塩基置換が起きない。
MSP: メチル化特異的PCR:Methylation-specific PCR
メチル化および非メチル化されている塩基を特異的にPCR増幅してメチル化の様子を解析する方法
● 抗がん剤感受性予測
がん治療においてテーラーメード治療の開発が急務になっている。細胞周期チェックポイントや、遺伝子修復に関与する遺伝子のDNAメチル化は、抗がん剤感受性を予測する分子マーカーとして期待される。
(以下省略)
○網羅的エピゲノム解析技術の新展開
油谷浩幸(東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野)
(最新医学 第63巻第4号 2008年4月号 「エピジェネティクス」特集 756-762 最新医学社)
<要旨>
ヒストン修飾やDNAメチル化は、染色体からの遺伝子発現を調節する重要なエピジェネティクス修飾であり、マイクロアレイや高速シークエンサーを用いたハイスループットなゲノム解析技術がその網羅的解析を可能にした。今後、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬や脱メチル化薬などのエピジェネティック医薬の臨床開発において、症例の層別化に利用可能なゲノム情報に基づくバイオマーカーの開発が期待される。

