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バイオマーカー・トピックス(No25.2008年8月28日)

バイオマーカーの探索・発見・適応への関心が内外で急速に高まってきています。トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等のポストゲノミクス研究の急速な進歩と実用化、テーラーメイド医療の進展、癌などの各種疾病の早期発見・診断への関心の高まりなどを背景に、それに寄与できるバイオマーカーが注目されてきているからです。

「バイオマーカー・トピックス」は内外で発信される数多くのニュースや雑誌記事、論文などから適宜選んで、その要約やポイントを日本語で紹介するものです。

皆様の研究活動やビジネスに少しでも役立てばと願っています。

なお、翻訳はサイリックが担当しており、専門用語などは的確でない場合もあることをご容赦ください。また長文の場合はサイリックの判断で一部のみを紹介しています。正確なことは直接原典で確認してください。(多田 丞)

 

<皆様からも情報提供をお願いします。次のメールアドレスにお願いします。>

tada@sciric.com

 

<目次>

日水製薬、エビ・カニのアレルギー物質、20分で検出可能。(2008/7/15) 2

診断と治療が同時に可能な世界初の開放型PET 装置を開発―PET の可能性を広げ、分子イメージング研究を推進   2

文部科学省、ヒトゲノムを高速解読できる「シーケンサー」配備へ.. 3

日英などの国際チーム、統合失調症の原因遺伝子を特定.. 3

鳥取大学、北海道大学等の研究者、野外で鳥インフルなどのウイルスを20分で検出できる形態小型センサーを開発   4

信州大・林准教授ら、遺伝子発現の有無で子宮筋腫と肉腫の判別できる診断マーカー開発.. 4

理化学研究所、2型糖尿病に関連する遺伝子「KCNQ1」を発見―日本人の2型糖尿病発症の2割に強く関与 -  4

産総研など、黒麹菌の全ゲノムのドラフト塩基配列の解読に成功.. 8

臨床研究指針、法規制検討を. 11

市場広がる抗体医薬品―人の免疫利用で少ない副作用、後発日本勢、参入相次ぐ. 12

松下電器産業、DNA配列から個人の体質を電気的に識別する技術を開発.. 13

九州大学・浜瀬健司准教授ら、アミノ酸全種類の立体構造を自動解析.. 13

買い手のホンネ(産地研調査から)―メタボリック症候群「将来なるかも」不安、3割に.. 14

第288回CBI学会研究講演会「バイオインフォマティクスの最近の話題:次世代シークエンサーデータ解析とプロテオミクスによるバイオマーカー探索」(後援:日本バイオインフォマティクス学会). 14

遺伝子解析、医療に応用―糖尿病など予防に道.. 14

<最近のバイオマーカー関連研究論文から>.. 15

○次世代シークエンサーで進展する生命医科学―ゲノム情報で医学は「個」を理解する時代へ―.. 15

○概日リズムと創薬標的遺伝子探索.. 15

○新薬開発におけるバイオマーカー活用の現状.. 16

○がん臨床バイオマーカー研究の最近の展開.. 16

○ターゲテドプロテオミクス―高親和性抗体を用いたタンパク質複合体解析法.. 16

○急性心筋梗塞の予後予測指標としてのバイオマーカー.. 17

○抗VEGF療法(消化器) 18

 

(2008年7月15日)

日水製薬、エビ・カニのアレルギー物質、20分で検出可能。(2008/7/15)

日本水産系の検査薬メーカー、日水製薬は加工食品にエビやカニに由来するアレルギー原因物質が混入しているかどうかを20分で検出する簡易検査キットを開発した。生産ラインなどでそうした成分が誤って混入していないかどうかを調べるのに使う。分析装置などを使わずにすむ。エビとカニは食品への原材料表示が義務づけられており、今夏にも発売し食品メーカーを中心に需要を掘り起こす。検査キットは工場の生産ラインのぬぐい液や食品そのものを溶かした上澄み液などをサンプルに使う。サンプルをキットのプレートに垂らすと二十分程度で成分の有無がわかる。プレートには甲殻類アレルギーの原因となるたんぱく質「トロポミオシン」に反応する抗体を付けた。サンプル中のトロポミオシンが抗体と反応して結合すると赤紫色に発色する。(以下省略)・

 

(2008年8月)

診断と治療が同時に可能な世界初の開放型PET 装置を開発―PET の可能性を広げ、分子イメージング研究を推進

独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)分子イメージング研究センター、先端生体計測研究グループの山谷泰賀研究員らは、がんの早期診断などに有効なPET(陽電子放射断層撮像法)において、診断と治療を同時に行うことを可能にする世界初の開放型PET 装置を開発しました。従来のPET 装置は、検出感度を高めるために被験者を囲むように放射線検出器を配置していますが、一部でも検出器が欠損すると画像の劣化は避けられませんでした。その結果、患者ポートは長いトンネル状になり、これが患者の心理的ストレスを高めると共に診断中の患者のケアの障害にもなっていました。

今回、山谷らは最も画質の優れるPET 装置中央部分が検出器で覆われていない世界初の開放型PET 装置を開発しました。開放型PET 装置では、体軸方向に検出器リングを2 分割して離して配置しますが、検出器同士を結ぶ直線上の放射線を計測するというPET の原理によって、分割した検出器同士から開放空間の放射線を計測できます。PET の画像化理論に基づいて画像劣化が最小になるように検出器を除去している点がポイントで、シミュレーション及び基礎実験の結果、検出器を分割しても装置感度は低下せず、また放医研がこれまでに開発した「3 次元放射線位置(DOI)検出器」と組み合わせると、分解能の劣化も抑えられることが明らかとなりました。

新開発の装置は、開放空間から照射治療が行えるため、これまでは不可能であった治療中のPET 診断を可能にします。特に、粒子線がん治療装置と組み合わせると、ビームが照射された患者体内のがん標的近傍をPET で画像化して確認できることから、治療精度の向上に役立つものと考えられます。将来的には、画像化計算を高速化することで、診断・治療・確認をリアルタイムに行う未来型のがん治療も可能になると期待されます。また、本装置は、限られた数の検出器でも視野範囲を拡大できることから、全身を一度に診断できる高感度・低被ばくなPET 装置を比較的低コストで実現できる可能性があり、医薬品の開発効率を高める方法として注目されているマイクロドージング試験の推進に役立つものと期待されます。さらに、近年普及が進んでいるPET/CT 装置に今回の開発技術を応用すると、開放空間にX 線CT装置など別の診断装置を設置できることから、従来のPET/CT 装置では不可能であった同一部位からリアルタイムで高精度の情報を得ることが可能になります。本成果は国際特許及び商標登録「OpenPET」を出願し、2 月7 日に英国物理学会発行のPhysics in Medicineand Biology 誌に掲載されました。

(2008年8月11日)

 (図1)従来のPET 装置(左)と新たに開発した開放型OpenPET 装置(右)

(2008年8月11日)

文部科学省、ヒトゲノムを高速解読できる「シーケンサー」配備へ

(日本経済新聞 2008年8月11日付)

文部科学省は、ヒトゲノム(全遺伝情報)を高速で解読する装置「シーケンサー」を配置した研究拠点の整備に来年度から乗り出す。新型万能細胞(iPS細胞)の研究やがんの原因解明に役立てる。来年度の概算要求に整備費用として約10億円盛り込む方針だ。(後略)

 

(2008年8月11日)

日英などの国際チーム、統合失調症の原因遺伝子を特定

(日本経済新聞 2008年8月11日付)

日英などの国際研究チーム(英・カーディフ大学、日・藤田保健衛生大学等)は、精神疾患のひとつである統合失調症の原因遺伝子を突き止めることに成功した。患者と健康な人の全遺伝情報(ゲノム)を比較したところ、患者に共通して第二番染色体上にある遺伝子(ZNF804-

A)に変異が見られた。新たな治療法に役立つ成果だという。(後略)

 

(2008年8月18日)

鳥取大学、北海道大学等の研究者、野外で鳥インフルなどのウイルスを20分で検出できる形態小型センサーを開発

(日経産業新聞、2008年8月18日付)

鳥取大学の尾崎弘一助教と北海道大学の末岡和久教授らは、持ち運びが可能な小型ウイルスセンサーを開発した。ウイルスを構成するタンパク質があると、センサーの素子で電気信号が変化する様子をとらえる仕組み。鳥インフルエンザウイルスなど、野外の動物などで広がるウイルスの検出に便利となる。(中略)

S全サーは内部に抗体が含まれており、ウイルスのタンパク質と結合すると、センサー素子での電気の流れ具合が微妙に変化する。素子はカーボンナノチューブ(筒状炭素繊維)でできており、微量の電気信号をとらえることができる。検査時間は約20分。(後略)

 

(2008年8月18日)

信州大・林准教授ら、遺伝子発現の有無で子宮筋腫と肉腫の判別できる診断マーカー開発

(日経産業新聞 2008年8月18日)

信州大学の林琢磨・准教授らの研究チームは、子宮筋腫と子宮肉腫を見分けるためのバイオマーカー(目印)を開発した。免疫に関する一つの遺伝子の発現の有無で判断できるという。今年度内をメドに国内患者で大規模な臨床研究を実施し、精度を高める。試薬大手のシグマアルドリッチ・イスラエルとの共同開発を始めており、2年後をメドに日米などで製造・販売を始める計画だ。
バイオマーカーとして注目したのは、免疫に関する遺伝子「LMP2」。林准教授らはマサチューセッツ工科大学(MIT)の利根川進教授らとLMP2が欠損した雌のマウスの約4割に生後1年以内に子宮肉腫ができることを発見。そこでヒトの子宮平滑筋にできた腫瘍の組織で発現を検証した。
この遺伝子が作るたんぱく質を抗原と認識する抗体を作り、実際のヒトの細胞で調べた。抗体と反応すれば、遺伝子が発現しており、良性の筋腫と診断する。
筋腫と肉腫の違いの判断は顕微鏡では細胞分裂の違いで見比べるが、診断は難しいという。
抗体をマーカーとして日本人女性40症例の組織をみたところ、筋腫と肉腫の違いを90%の確率で診断できたという。組織をさらに詳しくみたところ、肉腫の組織だけでLMP2の発現が極端に低下していた。
子宮筋腫は通常、良性で20歳以上の女性の約40%がかかる病気といわれる。うち1割に悪性の肉腫がみられる。肉腫は既存の化学療法や放射線療法では治療が難しく、5年以内生存率も50%以下と深刻で、早期発見が重要になる。
林准教授らは国立がんセンターや京都大学、東北大学などと共同で近く大規模な臨床研究を開始。診断の精度を高めた抗原を精製し、シグマアルドリッチ社でヒトの子宮組織に対して働く抗体を作り製品化する。

 

(2008年8月18日)

理化学研究所、2型糖尿病に関連する遺伝子「KCNQ1」を発見―日本人の2型糖尿病発症の2割に強く関与 -

◇ポイント◇

  • わが国の2大プロジェクトが、同時に同一の遺伝子「KCNQ1」を同定
  • 日本人をはじめ、東アジア人では最も強力な関連遺伝子と判明
  • 欧米人の2型糖尿病にも強く関与、ハイリスク診断が可能に

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、文部科学省の個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)※1で実施した解析結果から、遺伝子「KCNQ1(ケ―シ―エヌキューワン)」※2が2型糖尿病の関連遺伝子であることを発見しました。理研ゲノム医科学研究センター(中村祐輔センター長)内分泌代謝疾患研究チーム(前田士郎チームリーダー)による研究成果です。
糖尿病患者は全世界的に増加していて、日本人でも40歳以上の4人に1人が糖尿病、あるいはその予備軍であるといわれています。成人で発症する2型糖尿病※3は、糖尿病の大部分を占めていますが、その発症には遺伝的な要素(なりやすい体質)が関係していることがわかっています。しかし、これまで日本人をはじめとした東アジア人では、2型糖尿病に強くかかわる関連遺伝子は知られていませんでした。
研究チームは、5,149人の2型糖尿病患者と4,176人の一般対照者を用いてケース・コントロール相関解析※4を行い、KCNQ1遺伝子内のわずかな違い「一塩基多型:SNP(スニップ)※5」が2型糖尿病と関係していることを突き止めました。KCNQ1遺伝子は、カリウムチャンネル遺伝子の1つであり、心臓の筋肉では非常に重要な働きをすることが知られていましたが、糖尿病との関係はまったくわかっていませんでした。このSNPの危険対立遺伝子頻度※6は一般人口において約60%であり、この危険対立遺伝子をもつと2型糖尿病が発症するリスクが1.3~1.4倍と増し、人口寄与危険度※7という試算から、日本人2型糖尿病の2割の人の発症にかかわっていると推察しました。さらに、シンガポールの国立シンガポール大学やデンマークチームのステノ糖尿病センターとの共同研究の結果、このKCNQ1は日本人だけでなく、これらの民族でも強力な2型糖尿病の関連遺伝子であることを見いだしました。また、厚生労働省のミレニアムゲノムプロジェクト※8糖尿病チーム(春日雅人サブリーダー)も独自に解析を行い、やはりKCNQ1遺伝子のSNPが2型糖尿病の発症と関連することを、偶然にも同じ時期に突き止めました。これまでKCNQ1が2型糖尿病とかかわることは、まったく知られておらず、今後、新しい糖尿病発症メカニズムの解明とともに、新たな治療法や予防法の開発につながることが期待できます。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(8月17日付け:日本時間8月18日)に掲載予定です。

1.背景

 糖尿病患者は全世界的に増加し、厚生労働省平成14年度糖尿病実態調査報告によると、日本人でもその患者数は740万人、予備軍を含めると1,620万人となり、40歳以上の4人に1人は糖尿病あるいはその予備軍であるといわれています(表1)。国際糖尿病連合のまとめによると、成人で発症する2型糖尿病は、糖尿病の85-95%を占めていますが、その発症には遺伝的な要素(なりやすい体質)が関係していることがわかっています。2007年以来、欧米の研究により、欧米人の2型糖尿病の有力な関連遺伝子TCF7L2(ティーシーエフセブンエルツー)などは報告されていますが、このような遺伝的要素には人種差があり、今まで、日本人をはじめとした東アジア人の2型糖尿病の強力な関連遺伝子は知られていませんでした。

 

2.研究方法

 同研究チーム(前田士郎チームリーダー)は、個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)(中村祐輔プロジェクトリーダー)が収集し、バイオバンクジャパン※9(東京大学医科学研究所内)に登録されている1,561人の糖尿病患者と2,824人の一般対象者の試料を用いました。この試料で2006年から約270,000カ所のSNPを解析し、糖尿病との関連が有力な9カ所のSNPを、機能未知な遺伝子やKCNQ1遺伝子を含む6遺伝子の中に発見しました(表2)。これらのSNPを、国立大学法人滋賀医科大学など、15施設から提供された2型糖尿病患者3,588人と一般対象者1,352人で検証した結果、KCNQ1遺伝子のSNP (rs2283228)が2型糖尿病の発症と強く関連することを発見しました(表2、P値 ※4 = 7.0×10-6)。
 このKCNQ1遺伝子をさらに詳細に調べた結果、KCNQ1には前述のSNP (rs2283228)よりも、さらに2型糖尿病の発症と強い相関を示す6ヶ所のSNPがあることを発見しました(図1)。最も相関の強いSNP (rs2237897)では、P値が6.8×10-13と非常に強く相関していたことから、KCNQ1は日本人では過去に類をみない、強力な2型糖尿病関連遺伝子であることがわかりました。さらに、この結果をシンガポール2型糖尿病患者1,498人と一般対象者1,881人、デンマーク2型糖尿病患者4,085人と一般対象者5,302人で検証したところ、KCNQ1遺伝子は日本人だけでなく、これらの民族でも2型糖尿病の強力な関連遺伝子であることがわかりました(シンガポール集団;P 値= 2.4×10-4、デンマーク集団;P値 = 3.7×10-11、3民族全体; P値 < 1×10-16)。

 

3.研究成果と今後の期待

 今回、KCNQ1遺伝子内のSNPが2型糖尿病と強く関連することを発見しました。このSNPがあると、2型糖尿病になる危険(オッズ比)が1.3~1.4倍増し、一般集団での危険対立遺伝子頻度が約60%である事から、人口寄与危険度を計算すると日本人では2型糖尿病全体の2割の人の発症にかかわっていると推察しました。
 また、世界で初めて、KCNQ1遺伝子が日本人をはじめとした東アジア人における強力な2型糖尿病の関連遺伝子であることも発見しました。欧米人の糖尿病では肥満が著しいのに比べ、日本人をはじめとした東アジア人の糖尿病では肥満の程度は軽く、人種によって糖尿病の発症の仕組みが違っていると考えられています。欧米人の糖尿病の場合は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が主な原因とされている一方、東アジア人の糖尿病の場合は、インスリンそのものの分泌が悪くなる「インスリン分泌低下」が主な原因と考えられています。基礎検討の段階ですが、今回発見したKCNQ1遺伝子は、このインスリンの分泌にかかわっていることが強く示唆されているため、この遺伝子は新しい糖尿病治療薬の標的になり得ると考えられます。また、今回の成果と、今までに欧米人で発見された関連遺伝子を組み合わせることで、糖尿病になりやすいハイリスクの人を診断することが可能となります。積極的な予防対策をハイリスクの人のみに講じることで、より効率的な糖尿病予防が可能になると考えられます。

<補足説明>

※1.文部科学省の個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)

文部科学省リーディングプロジェクトとして2003年から開始したプロジェクト。遺伝暗号の違いをもとに病気の原因、薬の副作用の原因などを明らかにして、新しい治療法や診断法を開発するためのプロジェクトであり、理研ゲノム医科学研究センターは中核機関として遺伝子解析の中心的な役割を果たしている。詳しい情報はHPで公開されている

※2.KCNQ1(ケ―シ―エヌキューワン)

細胞の機能を調節するメカニズムの1つに、細胞の中と外の間を流れる電流の変化がある。非常に複雑に調節されているが、プラスの電荷を持つカリウムの細胞内外での流れも重要な調節因子の1つと考えられている。KCNQ1遺伝子は、このカリウム電流を調節するカリウムチャンネルとよばれるものに関係する遺伝子群の1つ。過去にKCNQ1タンパク質は、心臓の筋肉では非常に重要な働きをすることがわかっているが、糖尿病とのかかわりは今までまったく知られていなかった。血糖値を左右するインスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞というところから分泌されているが、カリウム電流は、このインスリン分泌調節にも重要な役割を持っていることがわかっている。従って、KCNQ1遺伝子はインスリン分泌にかかわっていることが予想され

※3.2型糖尿病

糖尿病は血糖値が持続的に高くなる病気だが、代表的な糖尿病として若年者に急激に発症する1型糖尿病と、成人になってから緩徐に発症する2型糖尿病(成人糖尿病)がある。国によって差はあるが、糖尿病の80~90%以上は2型糖尿病であり、肥満などによりインスリンが効きにくくなること(インスリン抵抗性)と、膵臓のランゲルハンス島からのインスリン分泌が低下すること(インスリン分泌低下)で引き起こされると考えられている。欧米人では、肥満の程度が強く2型糖尿病の発症にはインスリン抵抗性が強くかかわっていると思われるが、日本人をはじめとした東アジア人では肥満の程度は欧米人に比べて軽いため、インスリン分泌低下がより深くかかわっているのではないかと考えられている。

※4.ケース・コントロール相関解析/P値

疾患の感受性遺伝子を見つける方法の1つ。疾患を持つ群と疾患を持たない群とで遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に比較する解析方法。検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、相関が高いと判定できる。欧米ではP値 < 1×10-10 となる遺伝子がいくつか報告されているが日本人をはじめとしたアジア人では今回のKCNQ1が初めて。今回KCNQ1で3つの民族から得られたP値 < 1×10-16に匹敵するのは欧米人でのTCF7L2だけであった。

※5.一塩基多型(SNPs)

ヒトの染色体にある全DNA情報(ヒトゲノム)は30億にもおよぶ文字の並び(塩基配列)で構成されている。この文字の並びは暗号(遺伝情報)となっており、その99.9%は全人類で共通だが0.1%程度に個人差(遺伝子多型)のあることがわかっている。多くの遺伝子多型は、違っていても影響は無いが、一部は病気のなりやすさなどに関係していると考えられている。一塩基多型(SNP)とは、その文字のならびが1つだけ異なっているもので(下図)、最も多く見られる個人差で大体1,000万カ所くらいあることもわかっている。今まで、どのSNPがどの病気と関連するかはまったくわかっていなかったが、最近、糖尿病などのありふれた病気とかかわりのあるSNPを、全ヒトゲノムの中から見つけ出すために、このSNPを網羅的に調べるゲノムワイドSNP解析が世界中で行われている。

※6.危険対立遺伝子頻度

SNPなどの遺伝子多型における各々のタイプを対立遺伝子(アレル)とよぶ。一般人口で多く認められるものをメジャーアレル、少ない方をマイナーアレルとよび、疾患の発症リスクを高めるものをリスクアレル(危険対立遺伝子)とよぶ。たとえば病気と関連するあるSNPがあり対立遺伝子がA(アデニン)とC(シトシン)で一般人口におけるAの頻度が60%, C の頻度が40%であるとAがこのSNPのメジャーアレル、Cがマイナーアレルとなる。もしも疾患群でA対立遺伝子の頻度が一般集団よりも有意に高くなっていればAが危険対立遺伝子となる。各個人は2本の染色体を持っている事から、危険対立遺伝子頻度は下記の式で計算される。

危険対立遺伝子頻度=(2a+b) ÷ 2n

a:

危険対立遺伝子を2つ持つ(ホモ接合体)人の数

b:

危険対立遺伝子とそうでない対立遺伝子を1つずつ持つ(ヘテロ接合体)人の数

n:

全体の人数

 

(2008年8月19日)

産総研など、黒麹菌の全ゲノムのドラフト塩基配列の解読に成功

黒麹菌のドラフトゲノム解析を終了

<ポイント>
・沖縄の泡盛や九州の焼酎の製造に用いられている黒麹菌のゲノム配列を解読。
・日本の伝統的な産業微生物である麹菌の代表菌種2種のゲノム情報が完備。
・有用物質の生産、バイオマスの有効利用などバイオテクノロジーへの応用に期待。
・沖縄県との連携により地場産業の振興(品質向上、高付加価値化等)にも期待。
<概要>
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE:ナイト)は、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)を代表とし独立行政法人 酒類総合研究所、大学、酒造メーカー、沖縄県関連機関などが参加する「黒麹菌ゲノム解析コンソーシアム」と共同で、黒麹菌(Aspergillus awamori:アスペルギルス・アワモリ)の全ゲノムのドラフト塩基配列の解読(ゲノムの概要の解析)に世界で初めて成功した。
今回ゲノム解析を行った黒麹菌は沖縄において泡盛の製造に伝統的に用いられているほか、焼酎製造に広く用いられる白麹菌(Aspergillus kawachii:アスペルギルス・カワチ)の起源になったとも言われている。黄麹菌、黒麹菌、白麹菌はともに国菌にも認定されている我が国を代表する産業微生物である。
NITE、産総研らは、先に清酒、味噌、醤油などの製造に用いられている黄麹菌(Aspergillus oryzae:アスペルギルス・オリゼ)のゲノム解析を行い、2005年12月22日に解析完了を発表した。黒麹菌のゲノム解析により、日本の伝統的な産業微生物である麹菌の代表菌種のゲノム情報が完備されることになる。

<社会的背景>
麹菌の仲間は米、麦、イモなどのデンプンを糖に変え、この糖を酵母がアルコールに変えることによってアルコール醸造が行われる。本州における清酒、味噌、醤油などの生産には麹菌(黄麹菌)が用いられてきた。一方、沖縄や九州など気温の高いところでのアルコール醸造には、クエン酸などの有機酸によって雑菌の繁殖を抑える能力の高い黒麹菌や、その変異種と考えられる白麹菌が伝統的に用いられてきた。伝統的に食用に用いられてきたため、その安全性が欧米諸国でも広く認められている。

麹菌やその仲間は、多くの有用酵素やクエン酸などの有機物を生産することから、醸造以外にも様々な用途に用いられてきている。例えば高峰譲吉博士が20世紀初頭に実用化したタカジアスターゼは現在でも胃腸薬の成分として広く使われている。また、近代的なバイオテクノロジー産業でも麹菌の仲間が幅広く用いられている。特に、伝統的に用いられてきて安全性が認められているものであることから、食品加工や機能性食品の製造に用いられる多種多様な酵素など、生活に密着したところでもさかんに利用されている。ゲノム解析によって遺伝子の全容が明らかになることにより、遺伝子工学技術を用いた有用タンパク質の生産や、高い高分子分解活性を活用したバイオマス分野での利用など、さらに広範な産業への利用が期待されている。
<経緯>
黒麹菌は琉球原産と考えられており、明治34年(1901年)に乾環氏が首里地方で分離して発表したものが学術研究の最初と言われている。その後、九州地方にまで利用が拡大する一方で、各地で分離された株が国内の微生物保存機関などで維持されてきた。
今回解析を行った黒麹菌NBRC 4314株(=RIB 2604株)も70年以上前に分離されたものである。現在はNITEの生物遺伝資源部門(NBRC)と独立行政法人 酒類総合研究所(RIB)で維持されている。
黒麹菌の分類は、最近の遺伝子塩基配列を基にした解析の結果から、クエン酸発酵などで産業利用されている黒カビ(Aspergillus niger)に近縁なグループと、それ以外の黒麹菌が主流をなすグループの2つに大きく分けられることがわかってきた。NBRC 4314株は後者のグループの標準株と位置づけられるものである。白麹菌とも極めて近い関係にあり、その起源になったと考えられる。今回NBRC 4314株の高精度なドラフト配列を解読したことにより、日本の代表的な産業微生物である麹菌の代表菌種2種について、基準となるゲノム情報が整備されたことになる。
<解析の概要および期待される効果>
解析を行った黒麹菌NBRC 4314株のゲノムサイズは約3千5百万塩基対と見積もられ、染色体末端などを除いたゲノムの99%以上について高精度の塩基配列を取得した。
今後、NITEではさらに解析を進めてゲノム配列データの完成度を高める一方、黒麹菌ゲノム解析コンソーシアムにおいて、ゲノムのアノテーション、他のアスペルギルス属糸状菌とのゲノム比較等を実施する予定である。
これにより、黄麹菌やその他の糸状菌とは異なった新規な糖質分解酵素(アミラーゼ、セルラーゼ等)、タンパク質分解酵素、脂質分解酵素などの発見が期待されるほか、高い安全性を背景として、有機酸や機能性多糖などの有用物質の生産、バイオマスの有効利用など、バイオテクノロジーの様々な分野での活用が見込まれる。
さらに、沖縄県が新世代塩基配列決定装置ギガシーケンサーを用いて実施する予定の黒麹菌の大規模シーケンスプロジェクト(2008年8月18日プレス発表)とも密に連携して解析を進める予定であり、沖縄県が所有する個々の株について遺伝子の変異を同定したり機能性や安全性の評価を行うための基準となる高精度なデータを提供することにより、沖縄県産の泡盛の品質向上や新規商品の開発などに貢献できると期待されている。
<沖縄県のプロジェクトなどとの連携>
今回我々はサンガー法によってドラフトゲノム配列を取得した。この方法は、ヒトゲノム解析をはじめとして、これまでほとんどのゲノム解析に標準的に用いられてきた方法であり、極めて信頼性の高い配列データ(素データで99%以上、結合整理された状態では99.99-99.99999%以上)が得られるのが特長である。今後の詳細な解析により、染色体末端などの特殊領域を除いたゲノムのほぼ全領域にわたって、基準となる高精度な塩基配列データが整備されることになる。
一方、沖縄県では、昨年度に導入したギガシーケンサーと呼ばれる最新の分析機器を用いる計画である。この方法では、一度に読み取れる塩基配列の長さが25-35塩基(サンガー法では約800塩基)と短いものの、高度並列処理により、単位時間当たりのデータ生産量が極めて高い(サンガー法に比べて100倍以上)という特長を持っている。これにより、実用株を含めた多数の株について短期間にゲノムデータを取得することが可能である。
ギガシーケンサーで得られた配列を精度よく結合整理することは現状では難しいため、沖縄県のプロジェクトでも我々が取得したNBRC 4314株の配列は基準データとして大きな役割を果たすことになる。すなわちギガシーケンサーによって得られた個々の配列データを基準データと比較することによって塩基配列の違い(変異)を同定することができ(下図参照 *関連資料参照)、これによって、それぞれの株の遺伝子型、機能性、安全性などを評価することが可能となる。
また、他の大学・研究所などとも連携を築き、得られた配列情報の効果的な利用を目指す。
<黒麹菌ゲノム解析コンソーシアムについて>
NITEと共同研究を実施する「黒麹菌ゲノム解析コンソーシアム」は、産総研を代表とし、以下の機関から構成される。各機関は協力して、ゲノムのアノテーション(遺伝子予測および注釈付け)、Aspergillus kawachii(アスペルギルス・カワチ)のランダムシーケンスによる配列取得、Aspergillus niger(アスペルギルス・ニガー)やAspergillus kawachiiを含む他のアスペルギルス属糸状菌との比較ゲノム解析等を実施する計画である。
・独立行政法人 産業技術総合研究所(代表) 酒類総合研究所
・大学
 近畿大学 金沢工業大学 早稲田大学 東北大学 東京大学
・沖縄県および関連法人
 沖縄県工業技術センター トロピカルテクノセンター
・その他
 アサヒビール株式会社 財団法人日本醸造協会
<用語の説明>
◆ゲノム
 ある生物種が有する全ての遺伝子のセット。遺伝子は、A、T、G、Cと略称される4種の物質のいずれかが鎖状につながった物質であるDNAからなり、この4種の物質の並び(配列)によって、タンパク質の合成やその使われ方などが暗号化されている。麹菌のゲノムは、全体で3500万~4000万個の並びからなる。
◆麹菌
 日本において醸造および食品などに汎用されている菌(微生物)であり、黄麹菌(アスペルギルス・オリゼなどのオリゼ群)、黒麹菌(アスペルギルス・アワモリなどのあわもり群)、および白麹菌(アスペルギルス・カワチ)からなる
◆バイオマス
 家畜排せつ物や生ゴミ、木くずなどの動植物から生まれた再生可能な有機性資源のこと(農水省、バイオマス・ニッポンホームページより)。
◆黒カビ
 アスペルギルス・ニガーの通称。生育して集落(コロニー)を形成すると黒く見える。
◆アノテーション
 DNAのA、T、G、Cと略称される4種の物質の並びから、どの部分がどのような役割(どのようなタンパク質の合成を行うかなど)を担っているかを示す注釈を付けることをアノテーションと言う。
◆アスペルギルス属糸状菌
 微生物であるカビの一種。胞子を付ける部分の形態が、カトリックの聖水を振りかける道具(アスペルギルム)に似ていることから名付けられた。発酵に利用されるものから植物や動物に感染するものまで、多数の異なる性質を持つ種からなる。
◆ギガシーケンサー
 第2世代のDNAシーケンサー。従来のDNAシーケンサーとは異なり、一度に読み取れる塩基配列の長さが25-35塩基(サンガー法では約800塩基)と短いものの、高度並列処理により、単位時間当たりのデータ生産量が極めて高い(サンガー法に比べて100倍以上)という特長を持っている。
◆サンガー法
 従来のDNAシーケンサーによるDNAの配列解析の方法。試料DNAを鋳型として、酵素によってDNA合成を行う時に使われる物質(A、T、G、Cと略称される4種の物質)の種類を判定することによって配列を解析する。
<問い合わせ>
独立行政法人 産業技術総合研究所 広報部 広報業務室
〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第2
つくば本部・情報技術共同研究棟8F
TEL:029-862-6216 FAX:029-862-6212
E-mail:presec@m.aist.go.jp

(2008年8月19日)

臨床研究指針、法規制検討を

(朝日新聞2008年8月19日付)

臨床研究をめぐる不祥事が後を絶たない。病気の原因解明や治療法の改善に欠かせない臨床研究だが、健康被害などを防ぐために定められた「指針」に強制力はない。国はこのままで来春、改定指針を施行する方針だが、従来のような法規制が必要なときではないか。

(中略)

「日本は、基礎研究で優れた業績を上げているのに、臨床研究は韓国などアジア各国に遅れをとっている」と(独)科学研究振興機構研究開発戦略センターの井村裕夫・首席フェロー。

日本製薬工業協会医薬産業研究所によると、海外の有力医学雑誌に03~07年に載った論文数を国別にみると、基礎研究では日本が米独に次ぐ3位だったが、臨床研究では18位。10年前に比べて基礎研究は上ったが、臨床研究は下がった。

井村さんは、今後病気の原因となる遺伝子が解明されるにつれ、きめ細かく多様な薬や治療法の開発が重要となるとみる。「対象患者の少ない薬の開発は、営利企業が手をつけにくく、研究者の役割が大きくなる。臨床研究と治験の質を向上させ、推進するためにも、法の下で両者を一本化し、規制と振興を図るべきだ」と強調する。

(2008年8月19日)

 

市場広がる抗体医薬品―人の免疫利用で少ない副作用、後発日本勢、参入相次ぐ

(読売新聞 2008年8月19日付)

人間の免疫力を利用して病気を治す「抗体医薬品」が医薬業界で注目されている。副作用のおそれが少なく、治療の効果が高いのが特徴とされており、開発や販売で先行する海外勢に対抗し、日本の製薬会社も相次いで参入している。ただ、従来の医薬品より生産コストが高いため、本格的な普及には価格を引き下げる技術開発が課題だ。

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<バイオを利用>

抗体医薬品は、バイオテクノロジーを利用してつくる医療用医薬品だ。薬は基本的に医療機関で注射によって体内に取り込む。

人間には体内に入ったばい菌やウイルスから体を守る免疫力が備わっている。「抗体」は免疫力の一つとして体内で作られるもので、いわばウイルスなどをつかまえて離さない役割を果たす。抗体がウイルスなどをつかまえると、その抗体を目印に免疫細胞がやってきてウイルスなどを攻撃し、排除する。抗体医薬品は、この仕組みを応用し、人工的につくった抗体で病気を治そうというものだ。

もともと体内に備わった免疫力を応用するため、抗体医薬品は、病気の原因となる部分にピンポイントに作用する。このため「一般的に副作用の恐れが少なく、効き目が高い」(中外製薬渉外調査部・松崎淳一副部長)とされる。

特に、薬の副作用に悩まされていたがんの新たな治療薬として期待されている。リウマチやぜんそくなどにも効果があるとされている。

<5.4兆円規模>

抗体医薬品は1980年代から研究開発され、現在、世界で約20種類が販売されている。市場調査会社のデータモニター社によると、2001年に39億6,000万ドル(約4,400億円)だった市場は2007年に263億ドル(約2兆8,900億円)と6倍以上になった。2013年には490億ドル(約5兆3,900億円)に達する見込みだ。

 日本でも約10種類が販売され、2007年の市場規模は約850億円と推定されている。これだけでも巨額だが、医薬品市場全体は世界で約70兆円、日本でも約7兆円の規模があり、抗体医薬品が市場を拡大する余地もまだまだ大きいと言える。

 ただ、発売中の抗体医薬品はほとんどが欧米の製薬会社の開発品で、日本勢は出遅れている。しかし、市場の拡大とともに参入も相次いでいる。

<コスト2倍>

人工の抗体は、遺伝子組み換え技術を使って、人間の抗体の遺伝子を動物の細胞に組みこみ、大量に培養して生産する。

こうしたバイオ技術を使うため、細胞の培養タンクなどで、わずかな菌の混入も許されない厳密な生産管理が必要になる。化学合成の薬品と比べて生産コストが2倍以上かかり、このうち設備投資は3~10倍に達するという。薬は高価になり、コストを下げる技術の開発が急務になっている。

製薬各社は、培養タンクから取れる抗体の量を増やしたり、効き目を高めて薬の使用量を減らしたりする技術の開発を進めている。

 

(2008年8月19日)

松下電器産業、DNA配列から個人の体質を電気的に識別する技術を開発

 

松下電器産業は19日、甲南大学杉本直己教授と共同で、薬効や病気の発症リスクなど個々の体質に影響を与える個人ごとのDNA配列の違い(SNP)を電気的に識別する技術を開発したことを発表した。

 

           SNP識別技術の概要(RBB TODAY)

(2008年8月19日)

松下電器産業、DNA配列から個人の体質を電気的に識別する技術を開発

 

松下電器産業は19日、甲南大学杉本直己教授と共同で、薬効や病気の発症リスクなど個々の体質に影響を与える個人ごとのDNA配列の違い(SNP)を電気的に識別する技術を開発したことを発表した。

本技術は、世界で初めてDNAを固定せずに電流計測することにより、正確かつ安価なSNP識別を実現したとのこと。従来の識別技術では、DNA複製反応を厳密に制御することが困難であったし、あらかじめ識別用の人工DNAを固定させた特殊で高価な電極を用意する必要があった。そのためSNPの正確な識別が困難だったが、今回あらたにDNA複製反応の有無を厳密に制御できる識別用人工DNAの塩基配列設計技術と、DNA複製の際に放出されるリン酸化合物の量を酵素反応で生じる電流値として測定する電気的検出技術とを開発し用いたものとなっている。

DNA複製反応の際に、一塩基複製されるごとに反応副産物として「ピロリン酸」と呼ばれるリン酸化合物が1分子放出される。このピロリン酸の量に応じて電流として検出できる新規な酵素反応系を開発、3種類の酵素を用いて、ピロリン酸の量を電子伝達体であるフェロシアン化カリウムの量に変換し、その酸化電流を測定することに、世界で初めて成功したという。

これにより、正確かつ安価に一人1人の薬効や病気の発症リスクを知ることができるため、今後、一般病院や診療所などの医療現場で、個人の体質に合わせた健康管理や医薬品処方が将来的に可能になる見込み。

 

<関連記事>

松下電器 個人の発症リスクなど 高精度・安価で識別できる技術(センサーチップ)を開発、5年後めどに商品化

(日本経済新聞 2008年8月20日付)

(記事詳細は略)

現在の識別機器(センサーチップ)は1セット数万円するが、新技術を使えば数千円以下に引き下げることも可能と同社ではみている。今後、大学等の研究機関や製薬会社などと連携し、5年後をめどにセンサーチップを商品化する計画だ。

 

(2008年8月20日)

九州大学・浜瀬健司准教授ら、アミノ酸全種類の立体構造を自動解析

九州大学の浜瀬健司准教授らの研究グループは、すべての種類のアミノ酸の立体構造を自動分析できる装置を開発した。アミノ酸には「光学異性体」と呼ぶ立体構造の違うD型とL型があるが、これまで区別して測ることができなかった。最近の研究で、D型アミノ酸は大脳などに多く存在することがわかり、解析できれば生体の機能解明や疾患研究が進む。

 研究グループは資生堂と新型装置の実用化に向けて研究を進める。

 新装置はアミノ酸の疎水性の違いや物質の吸着力の違いなどを利用して二段階で分離する。十分程度ですべてのアミノ酸に関して全自動で構造を解析する。感度も従来品の十倍以上に高めた。(詳細は省く)

 

(2008年8月21日)

買い手のホンネ(産地研調査から)―メタボリック症候群「将来なるかも」不安、3割に

(日本経済新聞 2008年8月21日付)

メタボリック(内臓脂肪)症候群の健診が今年度から始まった。日経産業地域研究所の調査ではメタボに該当する人だけでなく、「そのうちなってしまうかもしれない」という不安の抱いている人の多くまでも、解消・予防対策に余念がないことが明らかになった。対策では食生活の改善のほか、特定保健用(特保)食品を取り入れる人も目立った。

調査対象者のうち、メタボに当てはまる人は16%、50代以上では26%に高まる。また、将来メタボになる不安を抱く「メタボ不安者」は30%だった。(以下省略)

 

(2008年8月22日)

第288回CBI学会研究講演会「バイオインフォマティクスの最近の話題:次世代シークエンサーデータ解析とプロテオミクスによるバイオマーカー探索」(後援:日本バイオインフォマティクス学会)

従来法と比べ桁違いに高速にDNA配列を決定できる次世代シークエンサーの実用化の時代がやってきた。個人のゲノム配列を現実的な時間とコストで読むことも夢物語ではなくなった。SNPや点変異も感度よく同定でき、定量性を加味することでマイクロアレイの守備範囲であった遺伝子発現解析やChIP-chip実験をも飲み込んでしまう勢いである。しかし、そのデータ生成量は生半可なものではなく、膨大な情報をどう料理するかがバイオインフォマティクスの新たな課題になっている。一方、プロテオミクス研究分野も着実に進展し、最近は特に臨床応用に直結したバイオマーカー探索が世界的にもよく研究されている。そこでも質量分析を用いたプロテオミクスデータからいかにマーカータンパク質を絞り込むか、マーカータンパク質を検出する抗体をいかに効率的に作成するかなど、インフォマティクスの適用分野がますます拡大している。そこで、本講演会ではこれら二つの分野の第一線で活躍しておられる研究者を講師にお招きして、現状をざっくばらんにお話しいただくことにした。多くの参加者にとって刺激的な会になることを願っている。

 

(2008年8月26日)

遺伝子解析、医療に応用―糖尿病など予防に道

(日本経済新聞 2008年8月26日付け)

糖尿病用など生活習慣病の改善に向けて、遺伝情報の個人差(多型性)を活用するテーラーメード医療の実用化が近づきつつある。理化学研究所などは日本人の糖尿病に発症に強く関わる多型性を発見。薬の有効性を見極めるだけでなく、発症の予防につながる可能性もある。ただ、本格的な普及には、食事などの生活習慣に対する指導の徹底や究極の個人情報を扱うという倫理問題の解決が欠かせない。

理化学研究所と国立国際医療センターはそれぞれ、2型糖尿病の発症に関わる新たな遺伝子多型を発見した。2型糖尿病は糖を血中から減らすインスリンの分泌量が少なかったり、うまく働かなかったりして発症する。将来病気になる可能性がある「予備軍」も含めて国内1,870万人が患う糖尿病の原因の95%を占める。

理研と医療センターが発見した遺伝子「KCNQ1」(注:2008年8月18日、理化学研のニュース参照)は、遺伝子を構成する塩基配列がある特定の

 

<最近のバイオマーカー関連研究論文から>

 

○次世代シークエンサーで進展する生命医科学―ゲノム情報で医学は「個」を理解する時代へ―

菅野純夫(東京大学大学院新領域創成科学研究所) 上田夜泰己(独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)

(実験医学 第26巻第14号 2008年9月号、P2219-2226 羊土社)

<要旨>

次世代シークエンサーの登場で生命医科学の研究は新たな段階に入りつつある。かつてヒトゲノムの解読に10年以上の年月を要したが、今のシークエンス技術を用いると、例えばDNAの二重らせん構造お発見したワトソン博士の全ゲノム配列は、わずか2ヶ月ほどで解読されている。目の前にある大量のゲノム情報から、いかに意味のあるデータを取り出せるかが生命現象の理解にとって重要なポイントとなっている。今回、次世代シークエンスを活用した研究を積極的に進める東京大学の菅野純夫先生と、システムバイオロジーを牽引する炉科学研究所の上田泰己先生に、ゲノム研究の展望について議論していただいた。

 

○概日リズムと創薬標的遺伝子探索

橋本誠一(アステラス製薬㈱分子医学研究所)

遺伝子医学 MOOK 第10巻 「DNAチップ/マイクロアレイ臨床応用の実際」 P350-355 メディカルドウ)

<要旨>

生体において主要な機能を担っている多くの遺伝子の発現レベルが日内変動している。従って、DNAマイクロアレイを用いて臓器・組織の包括的遺伝子発現解析をする場合、生体リズムについて常に留意しなければならない。創薬研究において、疾患に伴い発現レベルが変動する遺伝子や薬物刺激に応答して発現レベルが変動する遺伝子を探索しようとする場合、検出された遺伝子発現の変化が、真に疾患や薬物応答に伴う発現レベルの変化なのか、あるいはリズム変動によるものなのかは重大な問題である。これまで見落とされてきた問題に迫る。

<抜粋>

DNAマイクロアレイは、ゲノム創薬研究における中心的の技術の一つとして、創薬標的遺伝子や疾患マーカー遺伝子の探索などに活用されている。具体的には、健常人や病人の組織からRNAサンプルを調整して、疾患に伴い発現レベルが変動する遺伝子をゲノムワイドに探索し、その中から創薬標的遺伝子候補を絞り込む最初のステップとして活用したり、病気診断の指標となるマーカー遺伝子を見つけ出し、早期診断技術の開発などに用いられている。しかしながら、病態組織において発現が変動している遺伝子を探索することは、単に正常組織と病態組織から調整したRNAサンプルをDNAマイクロアレイで測定して違いを見ればよいということではない。生体リズムによって正常組織においても多くの遺伝子が時々刻々発現レベルを変化させているからである。また、気管支喘息は明け方に、心筋梗塞は早朝に頻発するなど、疾患発作や症状悪化が特定時間帯に起こりやすいことも知られている。従って、正常組織と病態組織における遺伝子発現の違いを経時的に観察し、特に疾患発作や症状悪化の時間帯における変化に着目する必要があるだろう。

 

○新薬開発におけるバイオマーカー活用の現状

山口行治(実行データサイエンス㈱)

(日本薬理学誌 131号 2008年 p435-440)

<要約>

新薬の臨床開発では最新の診断技術が活用されず,依然として問診などの医師や患者の主観的な判断に依存している部分が多い.このような臨床評価に技術革新をもたらすものとしてバイオマーカーが期待されている.欧米の製薬企業や審査当局の取組みを紹介し,バイオマーカーを実用化するための課題についてまとめた.バイオマーカーは探索的臨床試験から検証的臨床試験に移行する段階での開発の意思決定に役立っている.臨床試験で用いられるバイオマーカーを動物実験の段階で評価することは候補化合物の選択と技術評価の両側面から有用であり,動物用のイメージン

グ装置が製薬企業に導入されている.安全性のバイオマーカーについては,産官学のコンソーシアムを中心に推進されている.こういった欧米でのバイオマーカーの実用化にはベンチャー企業が果たす役割が大きい.

未解決の問題として,膨大な開発費が必要となる慢性疾患の検証的臨床試験でバイオマーカーが活用されていないことが挙げられる.慢性疾患のバイオマーカーの開発では,一般に個体間変動と個体内変動が複雑に交絡して技術的なバリデーションが困難であることに加えて,審査当局の意向に依存する部分が多いため,費用対効果が正確に算出できない.薬理研究も含め,幅広い分野の技術や知識を結集することで,こういった実務的問題に新しい解決策がもたらされることを期待したい.

 

○がん臨床バイオマーカー研究の最近の展開

小泉史明(国立がんセンター研究所 腫瘍ゲノム解析情報研究部;国立がんセンター中央病院 計画治療病棟支援施設)

(日本薬理学誌 131号 2008年 p435-440)

<要約>

近年,がん分子標的薬の開発が盛んになり,一部で臨床使用が可能となった.分子標的薬は,標的分子に作用する薬剤として同定されるため,おのずとバイオマーカー研究とは親和性が高いと考えられる.バイオマーカーには様々なものが存在するが,がん薬物療法においては,高い毒性と低い有効性の点から,薬効,安全性を予測するバイオマーカー研究が盛んにおこなわれている.また,新薬開発の初期段階から,バイオマーカーを利用する試みも始まっている.本稿では,がん臨床におけるバイオマーカー研究の中から,抗がん薬のバイオマーカー研究の現状を概説し,今後の方向性について述べてみたい。

 

○ターゲテドプロテオミクス―高親和性抗体を用いたタンパク質複合体解析法

浜窪隆雄(東京大学先端科学技術研究センター分子生物医学部門)

別冊・医学のあゆみ 特集「システム生物医学」 P51-55 医師薬出版㈱)

<要旨>

マススペクトロメトリーの発展とともに、多数の微量蛋白質の迅速な同定が可能となってきた。この高感度分析技術を用いて網羅的な解析を行い、これまでの一つの分子の振る舞いの記述により生命反応を説明しようとする生化学から、多数分子の挙動を一挙に分析して、ひいては生命現象の解析に迫ろうとするシステム生物学へのアプローチのツールとしてプロテオミクスを利用する試みがなされている。DNAアレイと異なり蛋白質の網羅的解析にはかなりの困難が横たわっているが、サンプルをカラム分画するとか抗体アフィニティーを用いて濃縮するなど、解析の対象を目的に応じてターゲットすることにより有用なプロテオミクス解析ができる。高親和性抗体と低ノイズビーズを用いて目的蛋白質をアフィニティー濃縮することにより、内在性蛋白質の複合体解析への道を探る。

<バイオマーカー探索>

尿や体液あるいは組織を用いて疾病の診断に有用な新規のバイオマーカーを探索することは、プロテオミクスのひとつの重要なアプリケーションである。しかし、著者らの経験に照らしても、これまでのところDNAアレイチップのほうがプロテオミクスよりはるかに効率よく候補分子をひろうことができる。網羅的プロテオミクス(unbiased proteomics)で効率よく疾患特異的蛋白質を同定できない最大の原因は、量の問題である。たとえば、肝癌マーカーであるAFP(α fetoprotein)のカットオフ値は20ng/mlあるいはそれ以下の濃度レベルと考えられている。おおかたの予測では疾患特異的なプロテオミクスのためには、サブナノレベルの検出が必要であると考えられている。サーモエレクトロン社のイオントラップ/Fourier変換イオンサイクロトロン共鳴(LTQ/FT)あるいはオービトラップMSはきわめて高い分解能を有しており、性能的には可能なレベルに達している。しかし、生物試料、たとえば血清に多量含まれているアルブミンから出てくる大量の分解ペプチドが混在することにより、シグナルが重なってより少量の目的ペプチドが検出できない。血清サンプルの場合、アルブミンやグロブリンなど大量混入蛋白質を除去する抗体カラムが市販されており、微量蛋白質を相対的に濃縮することができる。しかし、ヒト血清のプロテオーム研究組織として18ヶ所のラボの共同研究からなるHUPO(Human Proteom Organization)でまとめられたデータによると、1つあるいは2つのペプチド断片が同定された蛋白質が9,504個あり、うち2つ以上のペプチドが同定されているのは3,020個であった。これを再評価した論文では、信頼度95%で同定されたといえる蛋白質は889個まで減ってしまった。血清中には10,000個程度の蛋白質が存在していると見積もられているので、同定率は10%に満たないことになる。血清中で上位10%を占める蛋白質はほとんどμg/mlで存在しているものであるから、診断的価値のあるng/mlあるいはそれ以下の蛋白質の同定には程遠い計算となってしまう。多糖類の蛋白質が異なる3オーダー以上の量比で存在している生物試料ではMSのダイナミックレンを超えてしまうので、何らかのターゲットを行う必要があると考えられる。

 

○急性心筋梗塞の予後予測指標としてのバイオマーカー

清宮康嗣, 清野精彦(日本医科大学千葉北総病院内科, 循環器センター)

(ICUとCCU 第32巻7号 2008年7月号 P573-579 医学図書出版)

<要約>

急性冠症候群の病態を分析し, 早期リスク層別化や予後予測に活用される血中生化学バイオマーカーの臨床応用が注目されている. プラーク生成に関連する炎症マーカー(CRP), 心筋ストレスマーカー(BNP, NT-proBNP), 血栓関連マーカー(VWF, ADAMTS13), プラーク不安定化マーカー(Flt-1, VEGF, PlGF)に注目し, 心筋梗塞急性期予後予測指標としての意義について概説する. 「はじめに」 急性冠症候群の病態を分析し, 早期リスク層別化や予後予測に活用される血生化学バイオマーカーは, 7つのスペクトルムに分類することができる. すなわち, プラーク生成に関連する(Plaque)マーカー, プラークの不安定化に関連する(Unstable Plaque)マーカー, プラークの破裂に関連する(Plaque Rupture)マーカー, 血栓形成に関連する(Thrombosis)マーカー, 心筋虚血(Ischemia)ストレスマーカー, 心筋傷害・壊死(Necrosis)マーカー, 左室リモデリング(LV Remodeling)マーカーである(図1)1)~5).

 

○抗VEGF療法(消化器)

布施望(国立がんセンター東病院内視鏡部,), 大津敦(国立がんセンター東病院外来治療部)

(医学のあゆみ 第224巻1号

血管内皮成長因子とその受容体を標的とした様々な薬剤が開発されているが, 消化器癌に対して有用性が確立しているものはbevaclzumab(BV)のみである. BVと化学療法の併用は切除不能進行・再発大腸癌に対する一次治療, 二次治療において生存期間の延長が示された. 三次治療における有用性は示されていない. 術後補助化学療法における有用性は検証中である. 作用機序の異なる分子標的薬との併用も検証されている. 膵癌に対してgemoitabine(GEM)との併用では有用性が示されなかったが, GEM+erlotinibとの併用による試験が進行中である, 胃癌に対してはcapecitabine / fluorouracil+cisplatinとの併用において有用性が検証中である. 効果予測因子となるバイオマーカー, 至適投与量や一次治療以降にBVを継続すべきかが今後の課題である. 腫瘍の成長は血管新生に依存し, 血管新生は酸素, 栄養, 成長因子, ホルモンの供給, 遠隔部位への腫瘍の播種に重要な役割を果たす. 血管新生にかかわる分子生物学の進歩の結果, 血管新生を促す多数の成長因子受容体経路が認められ, そのなかでもっとも主要な経路のひとつが血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)ファミリーの蛋白と受容体である.

 

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