バイオマーカー・トピックス(No15.2008年6月3日)
バイオマーカーの探索・発見・適応への関心が内外で急速に高まってきています。トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等のポストゲノミクス研究の急速な進歩と実用化、テーラーメイド医療の進展、癌などの各種疾病の早期発見・診断への関心の高まりなどを背景に、それに寄与できるバイオマーカーが注目されてきているからです。
「バイオマーカー・トピックス」は内外で発信される数多くのニュースや雑誌記事、論文などから適宜選んで、その要約やポイントを日本語で紹介するものです。
皆様の研究活動やビジネスに少しでも役立てばと願っています。
なお、翻訳はサイリックが担当しており、専門用語などは的確でない場合もあることをご容赦ください。また長文の場合はサイリックの判断で一部のみを紹介しています。正確なことは直接原典で確認してください。(多田 丞)
<目次>
・東京都老人医療センター、骨粗鬆症患者での骨折リスクを遺伝子で予測... 1
・サーモー・フィシャー・サイエンティフィック社、ジョージメーソン大学などと協力してタンパク質バ・イオマーカー同定でコラボレーションを開始... 3
・東レ、高感度タンパク質解析チップを開発 -患者のベッドサイドで迅速診断 テーラーメード医療のキーツールとして期待-... 3
・課題名「サブミリ分解能をもつ拡張型高速PETの要素開発」(要素技術プログラム). 5
・転移:肺へはどうやって行くの? (Nature誌より). 6
(2008年5月17日)
東京都老人医療センター、骨粗鬆症患者での骨折リスクを遺伝子で予測
骨粗鬆症患者の骨折リスクを遺伝情報で判断するシステムを、東京都老人医療センター(東京都板橋区栄町35-2)の森聖二郎内科部長らが開発した。リスクが高いとされた人は5割が骨折したのに対し、低い人は1割程度、遺伝情報を基にリスクを見定め、骨折の予防指導などができることになる。
判断材料にしたのは、骨形成を促すタンパク質をつくるTGFβという遺伝子の働きと、血液中にある象徴からカルシウム吸収を助ける水酸化ビタミンDの濃度。
患者112人の協力で血液を採り、1年以上、背骨の圧迫骨折との関係を調べた。その結果、水酸化ビタミンDが足りていて遺伝子の働きも高い17人で骨折したのは2人(12%)だったのに対し、水酸化ビタミンDが不足し遺伝子の働きも低い34人では骨折が17人(50%)に達した。
骨折の危険因子と考えられてきた骨密度との関係は特に認められなかった、という。
骨粗鬆症患者は国内1,000万人とされる。森さんは「患者の体質と状態で、骨折のリスクが3段階に分けられることが分かった。リスクに応じて薬を選んだり、生活指導できたりする」と話す。(小西宏)
(朝日新聞 2008年5月17日 朝刊)
<関連情報>
・東京都老人医療センターにおける骨粗鬆症診療
骨粗鬆症という疾患は、極めて学際的な要素を持った疾患と言える。婦人科では、主として骨代謝異常~骨量減少の状態にある患者を診療しており、内科・整形外科では、骨代謝異常~骨折~ADL・QOLの低下に渡る広い範囲の患者を診療している。また、痛みに対しては、ペインクリニック・リハビリテーション科が加わってくる。東京都老人医療センターでは、このような骨粗鬆症疾患に対し、6年前から内科・整形外科・婦人科・予防医学の協力による骨粗鬆症外来を設け、患者さんに対する包括的な治療を行っている。
現在、当センターの骨粗鬆症外来では、自身の不安から来院する患者さんや、近医および院内他科から紹介される患者さんを受け入れている。最近はステロイド性骨粗鬆症の患者さんについての依頼も多い。患者さんに対しては、アンケートによる骨折リスクファクターのチェック、骨密度測定、胸腰椎X線撮影、骨代謝マーカー測定などを施し、治療方針を決定している。また、最近では内科の中に"高齢者いきいき外来"を設け、骨粗鬆症外来とは別に患者さんの生活習慣に踏み込んだ形で、運動・栄養の指導を実施している。

・原発性骨粗鬆症診断基準とA-TOP研究
現在の診断基準(2000年度改訂版)では、低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を除き、以下の結果が確認された段階で原発性骨粗鬆症と診断される。
① 脆弱性骨折あり
② 脆弱性骨折なし(YAM 70%未満or脊椎X線像での骨粗鬆症化あり)
A-TOP研究会では、数年前から骨折リスクに関する研究を行い、年齢・既存骨折・骨密度・骨代謝マーカーがそれぞれ独立した骨折のリスク因子であることを明らかにし、リスクの重複が骨折の確率を高めることを明らかにしてきた。その結果をもとに、現在のJOINT-02では、年齢・既存骨折数・骨密度・骨代謝マーカー値のうちで1つ以上のリスクを有する患者さんをエントリー対象としている。本研究の結果から、リスクの重複と骨折に関するより詳細な情報が得られるかもしれない。
・テーラーメード医療に向けて
骨粗鬆症の定義は、骨量を中心にした考え方から骨強度を中心とする概念に変化してきた。現在では骨質の評価の重要性が指摘されるに至ったが、骨質を表す明確な指標はまだ明らかにされていない(骨代謝マーカーではないかと言われている)。これまで当センターにおいても骨折リスク・骨質の評価および遺伝情報に関する研究を行ってきたが、今後、この分野の研究を充実させ、患者さんにテーラーメード医療を提供したい。
(東京都老人医療センターのHPより)
<骨代謝マーカー>
・骨代謝マーカーとは
骨の新陳代謝が早いか遅いかを調べるために用いる検査である。しかしこれだけでは骨粗しょう症と診断できない。骨が削られている状態を見る骨吸収マーカーと骨がつくられている状態を見る骨形成マーカーがある。骨吸収マーカーは骨がけずられて出てきた骨の成分を、骨形成マーカーは骨がつくられる時の材料を測定している。
●骨吸収マーカー
・骨吸収マーカーとしては、従来、破骨細胞の骨吸収機能を反映する指標として、ハイドロキシプロリン(Hyp)が用いられてきたが、特異性などに問題があった。そのため最近は次のような骨吸収マーカーが用いられている。
・ピリジノリン(PYD)、デオキシピリジノリン(DPD)
・Ⅰ型コラーゲン架橋Nテロペペプチド(NTX)、Ⅰ型コラーゲン架橋Cテロペペプチド(CTX)
・Ⅰ型コラーゲンC末端テロペペプチド(ICTP)
・酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP)
●骨形成マーカー
・骨型ALP(骨型アルカリホスファターゼ:BAP)
よく用いられている骨代謝マーカーの一つ。EIA法、IRMA法などで測定
・OC(オステオカルシン)、またはBCP(Bone Gla Protein)ともいわれる
OCは骨が細胞内でその前駆物質から生成され、その後intact OCとなり骨芽細胞から放
出される。RIA法、IRMA法、sandwichELISA法などの測定方法が用いられる。
・Ⅰ型コラーゲンC末端ポリペプチド(PICP)
測定にはRIA法、EIA法などが用いられるが、測定系により異なった値ができるため注意が
必要。
(2008年5月27日)
サーモー・フィシャー・サイエンティフィック社、ジョージメーソン大学などと協力してタンパク質バイオマーカー同定でコラボレーションを開始
サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Waltham, MA, USA)は、バイオマーカーの発見・同定を加速し、かつ初期の疾病診断での新しい突破口を切り開くために、BRIMS(Biomarker Research Initiatives in Mass Spectrometry)センター及びジョージメーソン大学(George Mason University)のCAPMM(Center for Applied Proteomics and Molecular Medicine) との共同研究を開始した。
バイオマーカーは、特定疾患に対するある治療の潜在的な有効性を予測したり、あるいは特定の疾病の進行や発症(悪化)リスクなどを測定・診断できる生化学的指標あるいはファセット(面)である。
バイオマーカー研究での重要な挑戦は、実験の結果を独立した指標として同定することにある、とされる。
サーモ・フィッシャーとCAPMMの間のアライアンスは、高速のバイオマーカー同定法を提供するためにBRIMSとジョージ・メーソン大学研究所が共同して特別な「クロス・バリデーション」ワークフローを実施することでこの重要な挑戦を克服するつもりである。(以下省略)
(NanoWeak 2008年5月27日より http://www.nanowerk.com/news/newsid=5840.php)
(2008年5月28日)
東レ、高感度タンパク質解析チップを開発
-患者のベッドサイドで迅速診断 テーラーメード医療のキーツールとして期待-
INCLUDEPICTURE "http://www.toray.co.jp/news/images/nr080528.jpg" \* MERGEFORMATINET
東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:榊原 定征、以下「東レ」)は、このたび、血液や尿等に含まれる微量の疾患マーカータンパク質2)を高感度で簡単に検出できる検査診断用タンパク質解析チップを開発しました。疾患マーカータンパク質の解析に必要な試料の前処理、分離、検出など全ての操作を行える名刺半分大の樹脂製チップで、これまで数時間以上を要していた解析作業を15分以内に行うことが可能になります。当社は本開発品について、来年度中の承認申請を目指して実用化開発を進めて参ります。
今回の開発により、これまで大手の病院や検査センターでしか行えなかった疾患マーカータンパク質の検査が中小の病院や診療所等でも可能になり、検体が微量で濃度が低くても、患者のベッドサイドで簡便・迅速に行えるようになります。これによって、救急医療や病気を未然に防ぐ予防医療にとどまらず、食品・環境分野における安全性検査等への適用も可能であることから、今後の臨床診断やバイオ研究を支援する新規バイオツールとして幅広い応用が期待されます。
従来、血液などのタンパク質を取り扱う研究では、専門家が煩雑な作業を繰り返すか、大型の専用ロボットに頼るしか方法がありませんでした。患者のベッドサイドで必要な時に迅速かつ高精度に様々な検査を行うことは難しく、微量の検体で簡便、迅速に解析できる新たなバイオツールとして、一つのチップ上で複雑な化学プロセスや生化学プロセスを実現させるタンパク質解析チップの開発が切望されていました。しかし、検体や試薬を微細な空間でハンドリングする技術や、微量の検体を用いて複雑な測定系を高感度に測定する技術、さらに迅速性や簡便性、コスト等、実現には多くの技術課題がありました。
東レは独自のナノとバイオの融合技術やこれまでのバイオツール開発のノウハウを総合的に活用することでこれらの技術課題を解決しました。本開発品の特徴は以下のとおりです。
一枚のチップ上に複数の機能を集積(タンパク質解析の全自動化)
検体の前処理、定量計量機能搭載
血液の血球分離、尿の沈殿物分離機構をチップ内に搭載し、採集した検体を前処理なしでそのまま検査できます。また、前処理後の検体をチップ内で自動的に定量計量する機構も備えており、適当量の検体をチップに注入するだけで正確な検査結果を得ることができます。
生体成分測定時の課題であるノイズ成分の除去機構搭載
東レ独自の表面修飾技術を活用することで、検体のノイズ成分を分離・除去する技術を開発し、測定の感度と再現性を大幅に改善しました。
試薬の自動送液機能
検査測定時の遠心力を利用した試薬の自動・順次送液機構を搭載することで、複雑な測定を自動化しました。また、測定項目別に試薬カートリッジをチップに装着する構造により、一つのプラットフォームで多様な測定項目に対応できます。
廃液処理機構
測定で使われた廃液が全てチップ内に留まる設計とすることで、使用後のチップをそのまま廃棄できます。感染防止等の安全面でも優れています。
シンプルな動作機構で高精度かつ迅速な測定を実現
遠心力というシンプルな送液機構のみを利用し、検体や試薬の複雑な取り扱い反応を行えるよう工夫しました。その結果、高精度な送液ポンプ等を一切用いない簡単な機構でありながら、再現性と迅速性に優れた性能を実現しました。
高感度、定量性に優れた性能を実現
ナノサイズレベルの表面修飾技術を活用し、マイクロサイズのビーズ表面に測定に必要なタンパク質を高密度に固定すると同時に、測定の妨害となる非特異的吸着を極限まで抑える技術を開発しました。これにより、高感度で再現性に優れた測定が可能になりました。その他、一定の流量や流速を維持する技術等、微量の検体を用いた測定時に発生する特有の課題を解決しました。
東レは中期経営課題“プロジェクトInnovation TORAY 2010”(IT-2010)に基づく高収益企業への転換を図る中、ライフサイエンス分野を重点領域のひとつと位置づけ、バイオツール事業の戦略的育成を推進しています。当社は今回開発した高感度タンパク質解析チップを、超高感度DNAチップ“3D-Gene”(2006年6月発売)に続くバイオツールの新たな柱として育成するべく、社外連携も含めた開発を推進して参ります。
【語句の説明】
1) タンパク質解析チップ
血液や尿などに微量存在するタンパク質を簡便、迅速に検出するチップ。微細加工技術などを駆使して数十~数百マイクロメートルの断面を持つマイクロ流路や反応室を一つの基板上に形成し、タンパク質の検出に必要な種々の操作機構を微細空間内に集積させることで、(1)化学反応や抽出の効率が高い(迅速)、(2)煩雑な操作が省ける(簡便)、(3)少量の試薬で測定できるなどの特徴を持つ。
2) 疾患マーカータンパク質
疾患に関わる特定のタンパク質のことで、疾患の原因そのものや疾患が原因で生成/増加/減少するタンパク質の総称。健常者と患者のタンパク質を比較し、その違いを解析することにより特定する。
(東レHPより、 HYPERLINK "http://www.toray.co.jp/news/medical/nr080528.html" http://www.toray.co.jp/news/medical/nr080528.html)
<関連記事>
日本経済新聞 2008年5月28日朝刊
診断用として病院などに普及すれば1000億-2000億円の市場になる見通し
(2008年5月29日)
東工大・浜松ホトがPET技術で解像度5倍、がん早期発見
東京工業大学・片岡淳助教と浜松ホトニクス。宇宙航空研究開発機構などの研究チームは人体の内部を撮影する陽電子放射断層撮影装置(PET)の高性能化につながる基盤技術を開発した。解像度が従来の5倍以上に向上し、より小さながん細胞が発見できる。また装置の小型化にもつながる、という。来年度にも患者を対象にした実証試験を始める。(以下省略)
(日本経済新聞 2008年5月29日朝刊)
<関連情報>
課題名「サブミリ分解能をもつ拡張型高速PETの要素開発」(要素技術プログラム)
チームリーダー : 片岡 淳 【東京工業大学 大学院理工学研究科 助教】
中核機関 : 東京工業大学
参画機関 : 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
浜松ホトニクス 株式会社
Ⅰ.開発の概要
陽電子断層撮影(PET)はガンを早期に発見する最良の手段であるが、装置の大型化と高コストが広い普及を妨げている。本開発では、光増幅フォトダイオード(APD)を基調とした「拡張型PET」の要素技術を確立する。優れた光感度をもつAPD を64ch ないしは256ch に配列化し、新開発の専用LSI と一体化することで、今までにない小型かつ高感度の撮像素子が作られる。PET の理論限界に匹敵するサブミリ程度の分解能に迫ることが可能となり、小さな腫瘍の発見や小動物の脳内代謝カメラとしても応用が期待できる。
Ⅱ.中間評価における評価項目
(1)APD-アレイの設計・製作
8x8ch 、16x16ch APD-アレイを計4種類製作し、各々、ゲイン、ピクセル容量、ピクセル暗電流の目標値を達成できた。
(2)専用LSIの設計・試作
回路シミュレータの立ち上げおよびこれを用いた LSIの設計完了し、8ch 読み出し用LSI、40素子の製作を完了した。完成した素子の評価基板の設計・開発も完了し、現在詳細な性能評価・機能試験を行っている。概ねシミュレーションで期待される性能が得られている。
(3)ピクセルシンチレータ(センサーヘッド)の性能評価
8x8ch の LYSOアレイ(2.2mm角)、16x16ch の LYSOアレイ(1.3mm角)に加え、8x8ch の LuAGアレイ(2.2mm角)を完成した。
Ⅲ.評価
PETの理論限界に匹敵するサブミリメートルの分解能にせまり、小さな腫瘍の発見や小動物の脳内代謝カメラとしても応用が期待できる要素技術の開発は、優れた光感度を持つAPDとシンチレータを配列化し、新たに開発する専用LSIと一体化することで、今までにない小型かつ高感度のガンマ線撮像素子を実現し、PETの次世代要素技術となることが期待される。
開発は極めて順調に進行しており、参画機関においては大面積APDアレーの実用化に関しての検討が既に進められ、当初計画には無かったTOF機能も開発された点は特筆すべき成果として評価できるものであり、今後の更なる発展が期待できる。今後はPETの要素開発として世界的な優位性の確保を念頭に置きつつ、積極的に推進すべきである。
(2008年6月3日)
転移:肺へはどうやって行くの? (Nature誌より)
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Nature Reviews Cancer 8(6), (Jun 2008)
原発腫瘍からの転移はなぜ、特定の臓器に限定されるのだろうか。これまで多くの説明がなされてきたが、どれも矛盾点を払拭できずにいる。そんな中でDavid Paduaらはこのほど、形質転換増殖因子β(TGFβ)が原発性乳がんの転移で果たす役割を明らかにした。
TGFβは低酸素条件下の腫瘍微小環境から分泌され、腫瘍の増殖を支援したり、反対に阻害したりすることがわかっている。Paduaらは、TGFβ応答シグネチャ(TBRS)(TGFβシグナル伝達経路の標的である153個の遺伝子群)を明らかにし、サイトカインが発がんに及ぼす作用を類別した。重要なのは、後に肺転移が起こった患者のエストロゲン受容体陰性(ER-)乳がん検体で、TBRSの発現レベルが高かったことである。Paduaらは、TGFβシグナル伝達と肺転移とのつながりを確かめるため、肺に転移することがわかっているLM2乳がん細胞のTGFβシグナル伝達経路の構成要素を破壊した。この変異LM2細胞をマウスへ注入したところ、LM2肺浸潤は大幅に抑えられた。これに対して、通常のLM2細胞をTGFβ【特殊文字ベータ】と共にインキュベートしたものでは、骨ではなく肺への播種が加速した。
TGFβシグナル伝達のどの標的が、ER-乳がん細胞に転移を起させるのだろうか。Paduaらは、サイトカインのアンジオポエチン様タンパク質4 (ANGPTL4)が、肺転移しやすいがん細胞に特徴的とされる遺伝子群にも、TBRSにも属していることに注目した。また、ANGPTL4の発現が内皮細胞間結合を切り離すこと、ANGPTL4が過剰発現する乳がん細胞は、通常の腫瘍細胞の2倍の速さで内皮層を通過することを明らかにしている。さらに、ANGPTL4とTGFβシグナル伝達との直接的なつながりを示す2つの知見がある。1つは、ER-原発性乳腺腫瘍細胞をTGFβと共にインキュベートするとANGPTL4の発現が大幅に強まったこと、もう1つは、マウスのAngptl4 をノックダウンすると、肺転移が1/10になったことである。以上の知見から、TGFβによりANGPTL4の発現が上方制御されると、内皮細胞間のつながりが断たれて肺転移が起こると示唆される。またPaduaらは、骨の血管壁は肺のものとは異なるため、ANGPTL4によりER-乳がん細胞の骨浸潤は助長されないと仮定している。
Paduaらは、ER-乳がん進行に果たすTGFβの役割の解明とは別に、乳がん細胞が肺に転移する分子機構の詳細も明らかにしている。腫瘍環境からのサイトカイン分泌によって、臓器特異的浸潤に向かうがん細胞が準備される、このあたりにがん治療薬開発の新たな可能性が見つかりそうである。
doi:10.1038/nrc2410

