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バイオマーカー・トピックス(No17.2008年6月16日)

 

バイオマーカーの探索・発見・適応への関心が内外で急速に高まってきています。トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクス等のポストゲノミクス研究の急速な進歩と実用化、テーラーメイド医療の進展、癌などの各種疾病の早期発見・診断への関心の高まりなどを背景に、それに寄与できるバイオマーカーが注目されてきているからです。

「バイオマーカー・トピックス」は内外で発信される数多くのニュースや雑誌記事、論文などから適宜選んで、その要約やポイントを日本語で紹介するものです。

皆様の研究活動やビジネスに少しでも役立てばと願っています。

なお、翻訳はサイリックが担当しており、専門用語などは的確でない場合もあることをご容赦ください。また長文の場合はサイリックの判断で一部のみを紹介しています。正確なことは直接原典で確認してください。(多田 丞)

 

<目次>

(2008年6月). 2

「NIHの研究支援プログラムの動向」から.. 2

(2008年6月6日). 2

NCIの科学者、血管形成アッセイ手法を開発... 2

(2008年6月8日). 2

島津製作所・田中耕一所長、タンパク質の検出精度を数十倍高められる装置を開発、3-4年後の発売目指す   2

(2008年6月10日). 3

シカゴ大学のゲノム・システムバイオロジー研究所(IGSB)と米・アルゴンヌ国立研究所、世界最高速のスパコンの使って複合的疾患の研究などに乗り出す... 3

(2008年6月12日). 4

米フレッド・ハッチンソン癌研究所、初期膵臓がん特有の物質を発見... 4

(2008年6月12日). 4

シスメックス社、乳がん転移の有無を自動判定できるシステムを開発... 4

(2008年6月12日). 4

東京都老人総合研など、長寿遺伝子を特定、生活習慣病の発症メカニズム解明に役立つ可能性... 4

<関連情報>... 5

「超長寿に関連するミトコンドリア遺伝子型を同定」. 5

「糖尿病に罹りにくいミトコンドリアDNAの個人差を特定」. 8

 

 

(2008年6月)

「NIHの研究支援プログラムの動向」から

(「BioTechniques:2008年6月号(Vol.44、No.7)」による)

NIH(米国国立健康研究所)の2008年の研究支援プログラムのうち、バイオマーカー関連のプロジェクトとして下記のものが取り上げられている。

http://www.biotechniques.com/default.asp?page=article_archive&subsection=article_display&display=full&issue=6/1/2008&id=112865

 

SRMLSC(Southern Research Molecular Libraries Screening Center):450万ドル(助成額)

(5U54HG003917-03, NHGRI)

 この研究のゴールは、①病気などの発症プロセスに深く関与すると考えられる特定の細胞内タンパク質の影響について調べるケミカル・プローブを開発すること、②そしてこれらをドラッグ・ディスカバリーにおいて標的となる分子を確定するためのツールとして使用可能にすること、③また、基礎的研究、トランスレーショナル研究、臨床研究などに向けた専門的な試薬(細胞イメージング、バイオマーカーの同定など)として利用可能にすること、である

 この提案には、その対象として考えられているどのような細胞も含むように計画されており、あるいはBSL-3のような組織を基礎とするアッセイをハイスループット・スクリーニング・フォーマットとして適応し、さらにヒットを最適化できるようにし、誰もが利用できるようなPubChemデータベースにもっていって一刻も早い普及を目指すこと、が含まれている。

このプログラムは次のような5つの機能的グループから構成される。

●アッセイ・インプリメンテーション、●ハイスループット・インプリメンテーション(HTS)、●化学合成、●プローブ開発、●インフォマティクス

 

(2008年6月6日)

NCIの科学者、血管形成アッセイ手法を開発

それはインビトロによりインビボ(生体内)環境を模倣している。

NCI(米国国立がん研究所)の研究者は、血管形成に関わる異なる細胞間の関連の調査できるインビトロでの血管形成分析手法およびアプリケーション・ソフトを開発した。これによって、現在ある治療の効果を改善するための新しいコンビナトリアル手法を開発し、単独治療あるいはコンビネーション治療の開発オ促進するものとなろう。

(Cell Based 「Assay News」より)

http://www.cba-news.com/issues/5_23/features/147421-1.html

 

(2008年6月8日)

島津製作所・田中耕一所長、タンパク質の検出精度を数十倍高められる装置を開発、3-4年後の発売目指す

ノーベル賞受賞者で島津製作所質量分析研究所所長の田中耕一フェローは6月7日、現在の装置よりタンパク質の検出感度が数十倍優れる高性能の質量分析装置を3-4年後にも発売する方針の明らかにした。小型で価格の約半分にできる見通し。

新型装置は従来アナログ駆動だったのオデジタル駆動でイオンを捕まえるようにした。電圧だけでなく周波数なども調節可能という。

社外との共同研究も進め、米シアトルにあるフレッドハッチンソンがん研究所などと、すでに見つけたがんバイオマーカー候補のタンパク質から本当に使えるタンパク質を選び出す作業を始める。対外で重要な働きをする糖鎖の検出技術なども磨き、病気の早期発見や画期的新薬の開発につなげたい考えだ。

ノーベル賞受賞時に3-5年先に血液一滴でさまざまな病気オ見つけ出す目標を掲げたことについては「人体はそんなにシンプルではなかった。少なくともあと5年はかかる」との見通しを語った。

(日経産業新聞2008年6月8日付)

 

(2008年6月10日)

シカゴ大学のゲノム・システムバイオロジー研究所(IGSB)と米・アルゴンヌ国立研究所、世界最高速のスパコンの使って複合的疾患の研究などに乗り出す

Jeanene Swanson

生物学研究と大学病院(臨床応用?)が非常によく連携していることで世界的に名高いシカゴ大学のゲノム・システムバイオロジー研究所(IGSB)と大学病院は、一石二鳥の成果を挙げている。

2006年4月、IGSBはスーパーコンピュータを利用したシステムバイオロジー研究で、DOE(米国エネルギー省)傘下のアルゴンヌ国立研究所との間でコラボレーションを組んだ。アルゴンヌ国立研究所は2007年11月、IBM製の世界最高性能を有するスーパーコンピュータ「Blue Gene/P」(処理能力445TFLOPS)を設置すると発表、2008年夏ごろまでに完成する予定とされ、これによってアルゴンヌ研究所がそれまで持っているスーパーコンピュータの処理能力と合わせると556TFLOPSとなり、これまでの世界最高の2倍以上の処理能力を有することになる。両者はこれを活用してトランスレーショナル研究とメタゲノミックス研究を結びつける研究で世界の先頭に立つことを目指している。

この研究のディレクターで、以前エール大学にいたときに大規模な共同研究の重要性を提唱していたケビン・ホワイト(Kevin White)は「IGSBは、膨大な量に達しつつあるゲノム・ストラクチャー及びゲノム・バリデーション等のデータの解析・翻訳に挑戦するべくスタートしつつあり、これによって複合的に生物学的プロセスを具体的に解明し、疾病などの解決に結び付けようと考えている」と述べている。

ホワイト氏が最初に取り組んだ仕事はシカゴ大学大規模細胞スクリーニングセンターを立ち上げたことであり、シカゴバイオ医学コンソーシアムから100万ドルの補助金を獲得した。

その後、彼は、ノースウェスタン大学、シカゴにあるイリノイ大学などとの共同研究体制を構築した。

IGSBのメンバーは現在70名になっているが、それにはシカゴ大学以外からのメンバーも加わっている。また、ホワイトは、今後数年内にさらに6名のメンバーを加える計画である。

また来年には、同研究グループは、新しく建設されるグウェンアンドジュールス・ナップバイオ医学・ディスカバリーセンター(Gwen and Jules Knapp Center for Biomedical Discovery、330,760平方フィートの研究スペース、小児医療部門を設置)及びルートヴィヒメタスタシス研究センターに移転する予定である。

(以下省略)

 

(2008年6月11日)

てんかん治療の標的発見

米アイオワ大学の研究チームは、転換の治療薬につながる標的分子を発見した。脳の神経細胞の膜上にあり、脳内の酸性度を

 

(2008年6月12日)

米フレッド・ハッチンソン癌研究所、初期膵臓がん特有の物質を発見

米国のフレッド・ハッチンソン癌研究所は、初期のすい臓がんに特有のタンパク質雄、マウス雄使った実験で発見することに成功した。ヒトのがん早期発見の手がかりになると見ている。

すい臓がんを発症するよう遺伝子を組み替えたマウスを使い、初期段階の腫瘍から分離した5つのタンパク質を特定。26人の血液でそのタンパク質を調べたところ、がんと診断される7-13ヶ月前の段階で、それらの値が高くなっていた。タンパク質を調べれば、ごく初期のがんの診断にも役立つと考えている。

(日経産業新聞2008年6月12日付)

 

(2008年6月12日)

シスメックス社、乳がん転移の有無を自動判定できるシステムを開発

医療検査機関大手のシスメックス(本社:兵庫県神戸市、社長:家次 恒)は、乳がんのリンパ節転移検査に用いる試薬について、厚生労働省より2008年6月6日付けで体外診断用医薬品として製造販売承認を取得した(試薬名「リノアンプBC」)。早期乳がんの手術では、リンパ節中のがん転移の有無の確認を顕微鏡による病理組織診断で行っているが、本試薬と専用分析装置を併用することにより国内で初めて自動化を実現した。

これまで病理専門医の確定診断には1-2週間ほど必要であった。この試薬で検体となる被験者の遺伝子を増幅させ、専門装置で調べる。正確な診断が30分程度ででき、手術中にも使えるのが特徴である。(日経産業新聞2008年6月12日付けなどを参考)

(以下は同社のホームページの紹介より)

 早期乳がんの手術では、リンパ節中のがん転移の有無を確認する病理組織診断が術中と術後の二回にわたって行われる。この二回の検査結果に基づき切除範囲や術後治療などの診療方針が決定される。しかし、特に手術中の限られた時間における検査の実施、転移判定の困難さなど、熟練した病理医の不足とともに、乳がん治療の課題となっている。

 同社が開発したOSNA法(One-Step Nucleic Acid Amplification:直接遺伝子増幅法)による乳がんリンパ節転移迅速検査システム(遺伝子増幅検出装置「RD-100i 」、遺伝子増幅検出試薬「リノアンプBC」)は、従来の方法と同等の精度を約30分と短い時間で行える。早期乳がんの手術において、リンパ節への転移の有無を手術中に検出することで、転移のあるリンパ節を同時に切除しておくことが可能となるため、患者の再手術による負担の軽減や再発リスクの低減に貢献する。さらに、検査を自動化・簡便化したことで、操作者の熟練度に依存せず、客観的な検査結果が得られるため、病理医の負担軽減と乳がん診療の均てん化につながる。

 今後は、この乳がんリンパ節転移迅速検査システムの早期の市場導入と普及を図るとともに、この技術を胃がん・大腸がんなどの転移検査へも活用できるよう取り組んでいく方針である。

 

(2008年6月12日)

東京都老人総合研など、長寿遺伝子を特定、生活習慣病の発症メカニズム解明に役立つ可能性

東京都老人総合研究所(所在地:東京都板橋区 所長:井藤英喜)の田中正嗣研究部長らと慶応大学などの研究グループは、105歳以上のまで長生きした日本人に多い遺伝子の特徴を発見した。通常の日本人では8%程度の比率でしか見つからない遺伝子変異だが、105歳以上の長寿者で調べると約15%が持っていた。動脈硬化など雄防ぐ働きをしている可能性があるという。

人間に遺伝情報が刻まれたDNAは大半が細胞核にあるが、ごく一部は細胞質に散らばった「ミトコンドリア」という細胞内小器官にも含まれており、母から子へと受け継がれていく。

研究グループは、このミトコンドリアDNAに着目して長寿との関連の調べた。

日本人はミトコンドリアDNAの遺伝子変異のタイプによって10程度のグループに分類される。このうち「D4a」というグループに属するヒトの比率は20-90歳の5,651人で調べたところ、8.44%だったのに対して、105歳以上の112人で調べると比率は1.8倍の15.18%に達していた。

ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを作り出す働きをしている。ミトコンドリアDNAがD4aに属するヒトは、本来なら加齢とともに働きが悪くなるミトコンドリアが高齢になっても活発に働くように変異を持っている。このため、動脈硬化になりにくくなるなど作用が働いて長寿につながっている可能性がある。この遺伝子変異を持っているヒトを詳しく調べることで、生活習慣病の発症メカニズム解明などに役立つ可能性があるという。

(日本経済新聞2008年6月12日)

 

<関連情報>

「超長寿に関連するミトコンドリア遺伝子型を同定」

米国雑誌「プロスワン」に発表

 このたび、(財)東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所の福 典之 主任研究員、西垣 裕 研究副部長、田中雅嗣 研究部長らの健康長寿ゲノム探索研究チームは、105歳以上の超百寿者112人と百寿者96人のミトコンドリア遺伝子の全塩基配列を決定し、アルツハイマー病やパーキンソン病・糖尿病患者など576人の全塩基配列と比較し、ミトコンドリア遺伝子のD型の中でも特にD4a型が長寿に関連していることを明らかにした。D4a型の頻度を岐阜県・東京都・群馬県で調べたところ8.44% (5651人中477人)であった。これに対し105歳以上の超百寿者では1.9倍の15.18%(112人中17人)であり、100歳以上の男性では2.7倍の20%(35人中7人)であった。D4a型の人は、ミトコンドリア電子伝達系(エネルギー産生系)の中心にあるチトクロームbという蛋白質において78番目のアミノ酸がイソロイシンからトレオニンに置換されている。この変化がこの蛋白質を安定化していると推定される。 この研究成果は平成20年6月11日にプロスワン「PLoS ONE (open access, online scientific journal from the Public Library of Science)」に掲載されたのでお知らせします(全文が閲覧可能)。
 1998年に同研究チームは100歳以上の人(百寿者)を調べ、ハプログループD(日本人の38%が有するミトコンドリア遺伝子の型)が長寿に関連していることを英国雑誌「ランセット」に報告した。またミトコンドリアのN9a型の人が糖尿病やメタボリックシンドロームに罹りにくいことを2007年に報告している。
 この結果は、東京都老人総合研究所、慶應大学老年内科、岐阜県国際バイオ研究所、米国ルトガース大学、米国ボストン大学、米国プリンストン高等研究所の共同研究の成果である。

1. 研究の背景

  細胞核の染色体にDNA(デオキシリボ核酸)が存在しており、ここにひとそろいの遺伝子のセット(ゲノム)の情報が含まれている。これまでのゲノム研究の多くは、この染色体DNAについての研究である。一方、「ミトコンドリア」は、細胞の中に網の目のように張り巡らされている構造(細胞内小器官)で、細胞が必要なエネルギーを作りだす働きをしているが、興味深いことに、もう一つの「ゲノム」であるミトコンドリアDNAを持っている。このミトコンドリアDNAは、両親から半分ずつ伝えられる染色体ゲノムとは異なり、全てが母親から子へ伝えられるという特徴を持っている。
 田中部長らは、100歳を超える長寿者11名に特徴的なミトコンドリアDNA配列(多型)があることを1998年に報告し、世界的に注目された(Tanaka Mら、Lancet 1998)。その後、日本人672人のミトコンドリアゲノム全塩基配列を調べ、2003年からミトコンドリアゲノムの多型に関するデーターベース(http://www.giib.or.jp/mtsnp)を公開するとともにGenome Research (Tanaka Mら、2004)に報告した。このデーターベースを元に、ミトコンドリアゲノムの型(ハプログループ)の網羅的解析システムを開発した。また、岐阜県立3病院を受診した2,906人(糖尿病患者1,289人・正常対照1,617人)ならびにソウル大学医学部附属病院を受診した1,365人(糖尿病患者732人・正常対照633人)について、糖尿病への易罹患性または罹患抵抗性に関連するミトコンドリアハプログループの探索を行った。その結果、日本人および韓国人で約4%の頻度で見つかるミトコンドリアDNAの型(ハプログループN9a)を有する人が糖尿病に罹りにくいことを明らかにした(Fuku Nら、American Journal of Human Genetics 2007)。
 長寿、あるいは糖尿病やメタボリックシンドロームなどに罹りやすい遺伝的体質を知ることにより、例えば発症前から身体運動や食事などの質や量を個別にアドバイスすることができる。これにより、その発症を抑えることを可能し、国民の医療費負担を軽減できるだけでなく、個人の「生活の質」を向上できると考えられる。

(東京都老人総合研究所HP http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/mascomi/080610_fuku.htm

 

「ミトコンドリア病遺伝子変異の網羅的迅速検出法を開発」

~ 28種類の原因変異を迅速に判定して早期治療につなぐ ~

米国神経学会年次総会において研究成果を発表

 

【ポイント】糖尿病や難聴などの原因となるミトコンドリア病を迅速に検出する画期的方法を開発した。

 このたび、東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所の西垣 裕 研究副部長、福 典之 主任研究員、田中雅嗣 研究部長の研究グループは、糖尿病や難聴、脳や筋肉の障害などをもたらす疾患群であるミトコンドリア病の原因遺伝子変異28種類の網羅的迅速検出法を開発しました。この疾患群の原因遺伝子変異は、現在までに数多くが報告されているのにも拘わらず、従来の検査法は一カ所ずつ変異の有無を調べていたため診断に至るまでに複数回の採血や長い期間が必要で、また検査毎に高額な検査費用がかかるなど、様々な理由から最終的に診断に至らないこともしばしばありました。今回開発された方法は、主要な40カ所の変異のうちの約7割を同時に短時間で判定することができる画期的な検査法です。この研究成果は平成20年4月15日に米国神経学会年次総会において発表されたのでお知らせいたします。

1. 研究目的

 細胞内小器官である「ミトコンドリア」は、細胞の中に網の目のように張り巡らされている構造で、細胞が必要なエネルギーを作りだす働きをしているが、興味深いことに、染色体ゲノムとは独立したもう一つの「ゲノム」であるミトコンドリアDNAを持っている。このミトコンドリアDNAは、両親から半分ずつ伝えられる染色体ゲノムとは異なり、全てが母親から子へ伝えられるという特徴を有している。このミトコンドリアDNAに変異が生じ、発症する難病の一群をミトコンドリア病(あるいはミトコンドリア脳筋症)と呼んでいる。この病気は、疲れやすい(易疲労性)とか下痢・便秘といった目立たない自覚症状から、低身長、糖尿病や感音性難聴、視力低下や手足の筋肉の脱力や感覚が鈍くなること、心臓機能が衰える心筋症や不整脈、時には認知症や脳卒中症状など多様な症状を生じる。症状の程度もほとんど無症状から寝たきりまで多様であり、発症年齢も乳児期から中年頃までと幅広い。この病気に対する根本治療法は、現在は残念ながら無いが、病気が慢性進行性の経過をとることが多いため、一刻も早く診断し、対症療法を開始することが望ましい。しかし原因となる遺伝子変異は、現在までに世界中で200種類以上が報告され、そのうち複数の研究施設で確認されている変異だけでも40種類程度あり、多種多様であることがこの病気の診断を困難にしている。したがって、ミトコンドリア遺伝子変異の網羅的検出法を開発することが急務であると考えた。

2. 研究成果の概要

  検査会社が通常行っているミトコンドリア遺伝子変異の有無を一つ一つ調べるような従来法と全く異なり、今回開発した蛍光ビーズ・アレイPCR-Luminex法を用いた「ミトコンドリア遺伝子変異の網羅的迅速検出法」は、30種類程度の遺伝子変異の有無を同時に短時間で判定することが可能である。

この方法の特徴として、

1) 28種類のミトコンドリア遺伝子点変異の有無を短時間・同時判定することが可能である。
2) 筋肉DNAは変異検出感度が一般的に高いが、この検出法は高感度であるため、血液DNAで検査することが可能である。
3) 28種類の変異判定には、全血 2 ml(へパリンあるいはEDTA-2Na、EDTA-2K採血管)から精製したDNAのほんの少量(10 ng)で十分である。
4) 1555変異のようなホモプラズミー変異だけではなく、3243変異のようなヘテロプラズミー(説明以下)も高感度で判定することが可能である。

   例えば代表的なミトコンドリア病であるメラス(MELAS, mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes)では、その患者さんの80%程度がミトコンドリアDNA 3243番目の塩基がアデニンからグアニンに変化している(3243A>G変異)ことがわかっているが、残りの20%の患者さんは、3243A>G変異を調べただけでは診断に至らない。今回開発した解析法は、1つの変異だけではなく、可能性のある複数の点変異も同時に調べることができるため、ミトコンドリア病を疑ったらすぐに実施できる一次スクリーニング検査として適している。現在、MELASの臨床型を含め、代表的な変異検出系(28種類)を設計している。
3. 研究開発の意義

  ミトコンドリア遺伝子に変異が存在する場合、その多くは変異したDNAと正常なDNAが混在する「ヘテロプラズミー」という状態で存在し、臨床症状が重篤の場合、変異DNAの割合(変異率)も高値であることが多い。またミトコンドリア遺伝子には、「臓器特異性」という特徴があり、骨格筋、血液、その他の臓器では、ミトコンドリア遺伝子の変異率が各々異なっている。この変異率は、一般的に骨格筋や神経組織で高いが、通常遺伝子診断で用いられる血液で低いということがわかっており、ミトコンドリア病の遺伝子検査を難しくしている。例えば代表的なミトコンドリア病の一つである慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)の一部のように、血液から精製したDNAでは変異がほとんど全く検出されないにも関わらず、同一症例の骨格筋から精製したDNAを検査するとミトコンドリア遺伝子の欠失変異を検出する。したがって、今回開発した方法に限らず、血液DNAを用いたミトコンドリア遺伝子検査で変異を検出しなかったからといってもミトコンドリア病を否定する根拠にはならないので注意が必要である。ミトコンドリア病の原因となる遺伝子の点変異は、現在までに200種類以上が世界中で報告されており、この内、40種類程度は、複数の研究施設で確認されている。このように原因遺伝子変異が多岐にわたるために、その遺伝子診断は通常困難であり、日本国内では、大学などの研究機関に委託して解析する以外、個別に選んだ15種類程度の変異しか検査会社に遺伝子検査委託することができない。一方、ミトコンドリア遺伝子の全塩基配列16,596塩基対を塩基配列解析装置(DNAシークエンサー)で調べる従来法は、コストや時間、さらに多くの手間がかかり、また低い変異率の検出に適していない欠点がある。これらの欠点を補うために、蛍光ビーズ・アレイPCR-Luminex法を用いた「ミトコンドリア遺伝子変異の網羅的迅速検出法」を開発した。この方法は、変異検出感度が高いので、一般的に変異率の低い血液DNAを用いても多くの症例で点変異の検出が可能であると考えられる。変異が検出された場合は、ミトコンドリア病として早期に治療を開始することができ、また筋生検などの「確定診断」を目指した神経内科的諸検査を実施する有力な根拠になるため、実際の医療現場では福音になると考えている。

 

~ メタボリックシンドロームや糖尿病の予防法開発へ ~

「糖尿病に罹りにくいミトコンドリアDNAの個人差を特定」

米国人類遺伝学会誌「American Journal of Human Genetics」において研究成果を発表

 

 このたび、東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所の福 典之 主任研究員、西垣 裕 研究副部長、田中雅嗣 研究部長らは、日本人および韓国人で約4%の頻度で見つかるミトコンドリアDNAの型(ハプログループN9a)を有する人が糖尿病に罹りにくいことを明らかにしました。この研究成果は平成19年1月22日に米国人類遺伝学会誌「American Journal of Human Genetics」に掲載されたのでお知らせします。(要旨が閲覧可能)。なお、本研究は、三重大学生命科学研究支援センター山田芳司教授、岐阜県国際バイオ研究所野澤義則所長ら岐阜県立3病院(岐阜・多治見・下呂温泉)、および韓国のソウル大学医学部内科学講座Hong Kyu Lee教授の共同研究グループの研究グループとの共同研究として行われたものです。

1. 研究目的

 細胞核の染色体にDNA(デオキシリボ核酸)が存在しており、ここにひとそろいの遺伝子のセット(ゲノム)の情報が含まれている。これまでのゲノム研究の多くは、この染色体DNAについての研究である。一方、「ミトコンドリア」は、細胞の中に網の目のように張り巡らされている構造(細胞内小器官)で、細胞が必要なエネルギーを作りだす働きをしているが、興味深いことに、もう一つの「ゲノム」であるミトコンドリアDNAを持っている。このミトコンドリアDNAは、両親から半分ずつ伝えられる染色体ゲノムとは異なり、全てが母親から子へ伝えられるという特徴を持っている。 田中部長らは、100歳を超える長寿者11名に特徴的なミトコンドリアDNA配列(多型)があることを1998年に報告し、世界的に注目された(Tanaka Mら、Lancet 1998)。その後、日本人672人のミトコンドリアゲノム全塩基配列を調べ、2003年からミトコンドリアゲノムの多型に関するデーターベース(http://mtsnp.tmig.or.jp/mtsnp/index.shtml)を公開するとともにGenome Research (Tanaka Mら、2004)に報告した。このデーターベースを元に、ミトコンドリアゲノムの型(ハプログループ)の網羅的解析システムを開発した。本研究では、岐阜県立3病院を受診した2,906人(糖尿病患者1,289人・正常対照1,617人)ならびにソウル大学医学部附属病院を受診した1,365人(糖尿病患者732人・正常対照633人)について、糖尿病への易罹患性または罹患抵抗性に関連するミトコンドリアハプログループの探索を行った。

2. 研究成果の概要

 日本人および韓国人で約4%の頻度で見つかるハプログループN9aを有する人が糖尿病に罹りにくいことが明らかになった(オッズ比0.55)。特に日本人ではハプログループN9aを有する女性は糖尿病に罹るオッズ比が0.27と、他の型を有する女性より糖尿病に罹る危険度が4分の1になることが分かった。一方、東南アジアで頻度の高いハプログループFを有する日本人は糖尿病に罹りやすいことが明らかになった(オッズ比1.54)。  ハプログループN9aに属するミトコンドリアゲノムでは、12358番目の塩基がアデニンからグアニンに変化している。このため、電子伝達系複合体?の第5番目のサブユニット(ND5)の8番目のアミノ酸がトレオニンからアラニンに変化している。このアミノ酸配列の一カ所の違いが、ミトコンドリア機能に影響を与え、糖尿病に罹りにくい体質の基礎となっていると推定される。現在、糖尿病だけでなく、メタボリックシンドローム・心筋梗塞・脳卒中でも関連するミトコンドリアゲノム多型が見つかっている。

3. 発見の意義

 糖尿病やメタボリックシンドロームなどに罹りやすい遺伝的体質を知ることにより、例えば発症前から身体運動や食事などの質や量を個別にアドバイスすることができる。これにより、その発症を抑えることを可能し、国民の医療費負担を軽減できるだけでなく、個人の「生活の質」を向上できると考えられる。現在、東京都老人総合研究所とソウル大学は、ハプログループN9aに属するミトコンドリアゲノムの機能的特徴を明らかにするために、細胞レベルでの共同研究を進めている。ミトコンドリアDNAの1ヶ所が変化するだけで、長寿になったり、生活習慣病にかかりやすくなるとすれば、ミトコンドリアの働きを長寿型に変えてしまうような薬を開発することによって、健康長寿のための薬が開発できる可能性もあり、今後、ミトコンドリアの働きを変える薬の開発研究が進歩することが期待される。

 

【問い合わせ先】
東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所 
健康長寿ゲノム探索研究チーム 健康長寿ゲノム探索研究チーム
研究部長 田中 雅嗣(たなか まさし) 電話 03-3964-3241(内3095)

 

(2008年6月13日)

東大農学部・佐藤隆一郎教授ら、「メタボ」にまった尾かけるタンパク質を発見

東京大学農学部食品研究室の佐藤隆一郎教授らの研究チームは、体のなかで過剰な脂質合成に「待った」をかけるタンパク質の働きを突き止めた。将来、メタボリックシンドローム症候群などの肥満改善薬の実現につながる可能性がある。この成果は米国生化学会誌に発表された。

タンパク質「SUMO」に新たな働きを見つけた。このタンパク質は普段、別のタンパク質にくっついて、脂質合成を進める遺伝子や血糖コントロールに関係する遺伝子の働きを制御している。

肥満の状態にあるマウスの肝臓では、別のタンパク質から離れ、脂質合成が過剰になったり、血中の糖質を細胞内に入りにくくして高血糖を引き起こしたりしていることが分かった。くっついた状態では、こうした異常な代謝が抑えられた。

研究チームではSUMOとタンパク質とを結びつける代謝関連遺伝子の制御が、メタボリック症候群の予防や症状改善につながっていくと見ている。

(日経産業新聞2008年6月13日付)

 

 

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