アルツハイマー疾患:進行か利益か?
アルツハイマー疾患は、痴呆症の最も一般的な原因である。世界保健機構(WHO)によれば、現在、世界中の痴呆症患者は概算3,700万人と推計されているが、このうち、アルツハイマー疾患患者は、約1800万人を占める。 「Nature Medicine」12/780―784(2006)
加齢はアルツハイマー疾患にとって、最も大きな危険因子である。先進国においては、アルツハイマー病は、60歳以上になるとおよそ5歳ごとにほぼ倍ずつ増加し、65歳以上では痴呆症の10人に1人程度、85歳以上ではほほ半数を占めている。このようなアルツハイマー疾患の発病率は、今もあまり変わっているとは考えられず、国のヘルスケアシステムの将来にとって大きな脅威の一つとなってきている。
先進国をはじめとして世界の多くの国々において、人口の高齢化は確実に進行しつつあり、世界全体で60歳以上の人口は、今後25年間でほぼ倍になるものと予測されている。
米国のアルツハイマー病協会は、‘Alzheimer's Society Policy Positions Paper— Demography’(http://www.alzheimers.org.uk/News_and_campaigns/Policy_watch /demography.htm)を発表しているが、そこでは、アルツハイマー疾患患者数は2025年には現在のほぼ倍の3,400万人に達すると予測している。米国においても、図1のように2050年ごろには毎年100万人近くの患者が新しく発症すると予測している。また、開発途上国においても、今後、人口及び平均寿命ともに大きな増加がみられるものと考えられるが、同協会では、1990年から2010年の20年間で、開発途上国での65歳以上の高齢者人口は1億8,300人から3億2,500万人へと78%も増加するとみている。
アルツハイマー疾患のコスト
アルツハイマー疾患の増加は、そのためのコストの増加を引き起こすだろう。既に現在でもアルツハイマー疾患は、大きな財政的、金銭的負担を強いつつある。
アルツハイマー病協会および国立エージング研究所(National Institute on Aging)は、米国のアルツハイマー疾患患者450万人のための直接費用、間接費用の合計は、毎年1,000億ドルに達しているいると推計している。アルツハイマー疾患患者の70%以上が家庭で生活しており、家族や友人がケアに当っており、ストレスや肉体的苦痛を強いられている。その結果、介護人自身も精神的疾患やさまざまな病的リスクに直面している。また、アルツハイマー病協会によれば、アルツハイマー疾患患者のいる家庭での介護人の8人のうち一人が病気を抱えたり怪我をしたりしているし、またその1/3は治療を受けている。
2030年ごろには、ベビーブーマーが65歳以上を迎え、アルツハイマー疾患患者が急増して、政府の財政負担能力を超えるレベルに達すると懸念されている。アルツハイマー病協会の報告書によれば、図2に示されるように、アルツハイマー疾患のメディケア・コストは、2005年の910億ドルから2010年には1,600億ドルへと75%も増加すると予測されている。更に、家庭で治療している患者などのメディケード消費額は、2005年に210億ドルであったが、2010年には240億ドルへと14%増加すると予測している。
しかしながら、同協会によると、アルツハイマー疾患の発症を5年間程度遅らせることのできる効果的な治療法の実用化は、毎年500億ドルの治療費を節約できる、としている。
従って、政府およびアルツハイマー疾患協会は、疾患発症の徴候が現れるのを少しでも遅らせ、疾患を予防することに力を入れ始めている。この目標を達成するため、政府は研究予算を増加させている。例えば、2005年度の米国連邦政府のアルツハイマー疾患研究費はおよそ6億4700万ドルとなっている。
診断及び初期の治療(予防)
アルツハイマー疾患を(発症前に)診断できる比率は一般的に低く、開発途上国では平均60%以下であるが、各国政府は今、同疾患に対するヘルスケア政策やガイドラインの制定に熱心に取り組み始めている。
アルツハイマー疾患の診断は、現在、アミロイド・プラーク(amyloid plaques)などの神経病理学的特徴の検出やオートプシー(解剖)による神経原繊維変性(neurofibrillary tangles)等のによるのみである。しかしながら、日常の臨床では、様々な方法は使用されており、研究によると、これらは解剖(オートプシー)と比較して87%有効であると示唆されている。それによって初期段階で診断できれば、早期の治療ができ、また共通する病的状態をモニターすることもできるので、患者にとっても家族にとっても有益である。
先進国では、プライマリーケアは初期の診断のポイントとなっている。患者は、診断を確認するために、続いて神経科医師等に相談している。神経科医師の一部は脳の画像診断を実施しているが、標準的には患者の年齢、認知テスト―ミニ・メンタル試験(Mini-Mental State Exam:MMSE)、ミニ・コグ(Mini-Cog)など―、および機能・行動テスト(例えば、Dementia Severity Rating Scale等)等を実施している。
国立神経疾患・伝達障害研究所(National Institute of Neurological and Communicative Diseases:NINCD)及び脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会(Stroke/Alzheimer's Disease and Related Disorders Association:ADRDA)によるNINCD-ADRDA基準は、「蓋然性」の診断あるいは疾患発症の「可能性」を判断するのに使用されている。また、「精神障害に関する診断・統計マニュアル・第4版」(DSM-IV)の基準も使用されている。
(以下省略)

